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雨が降って地固まる(銀妙)
※現パロ










「え…?」



それを聞いた時は、すぐに何かの間違いであってくれと願った。
だってこんないきなり、来週だなんて。



先週まで空白だった日付が埋まる。それも、願っていない予定により。



次に会う時、彼に何と言えばいいのだろう。







「は…?」




それを見た時は、すぐに何の冗談かと思った。まだ先のことなので急ではないが、よりにもよってその日に。



渡された一枚の紙とチケットに溜め息をつく。



次に会う時、彼女に何と言えばいいのだろう。












「…お妙?」



秋も徐々に深まりつつあるある日の夜。



仕事が終わり、早く夕飯を食べて寝ようとアパートの階段を駆け上がった銀時の目に、一人の女が飛び込んだ。



彼女は、銀時の部屋の扉の前で、寒空の中佇んでいる。




「あら銀さんお帰りなさい。遅かったですね」


「ちょっと長引いてな…って、お前何でこんなとこいんだよ」


「呼び出したのは銀さんでしょう?」


「じゃなくて、待つならそこのコンビニでもよかっただろ。秋っつっても夜はもう寒いしよ」


「前にコンビニで待ってます、ってメールして、そのメールに気付かないで散々私を待たせたのはどこの天パでしたっけ?」




過去の苦い記憶を突かれて銀時は言葉に詰まった。


あまりメールをチェックしない銀時が、妙を近くのコンビニで散々待たせた挙げ句電話で早く来いと言ってしまい、しばらく口を聞いてもらえなかったのだ。




早々と鍵を開けて妙を中に通す。
真っ暗で暖房器具の効いていない部屋は、外よりも寒く感じた。







「銀さん、お夕食まだでしょう?作って来たんで、よろしかったら」



ワンルームの部屋の真ん中に置かれている炬燵に持っていた重箱を置いた妙。
やはり中身は卵焼きもどきか、と銀時は隠れて溜め息をつく。



疲れて帰って来ると彼女がいて、しかも夕食の準備をしてくれているということ自体は何ともありがたいことだが、いかんせん妙の料理の腕は万物を殺しえるものなのだ。




「もう冷めちゃってますから、一度チンして…」


「あ…あのさ、お妙」




その万物を殺す料理の餌食となる前に、銀時は口を開いた。
言わなければならない、大切なことを。




「その…俺、お前に謝らなきゃならねーことがあってよ…」




どうか怒りませんように。
そう願いながら彼女の前に正座をする。



だが、話す覚悟を決める前に。




「あ、あの、銀さん…私も実は謝らなきゃならないことが…」


「え?」




と、先ほどまでとは打って変わって俯きながら言葉を絞る妙。
何を謝るのかと思ったが、いかんせんこちらの方が絶対に最低だと自負する銀時は、妙に先に言われるわけにはいかなかった。




「待て!俺から言わせろお妙!絶対俺の方が酷ぇから!」


「だ、ダメですよ!銀さんが何を謝りたいか知りませんけど、絶対私の方が酷いんですから!」


「いーや!俺の方がお前より数倍酷いから!お前アレだろ、どうせ銀さんの茶碗割っちゃいましたー、とかだろ!?」


「そんな小規模なことじゃありません!銀さんだって、どうせ私の家の表札に鼻クソ付けたとかでしょう!?」


「しねーよんな事!」


「じゃあ私の家の新ちゃんに付けたんですか!?何て酷い!」


「ちげーっつってんだろ!
つーかこれから言うことはそれより酷いからな!実は俺…」


「待って!私が先に言います!実は私…」




こうなったらヤケだ、とお互いが声を荒げながら、言い放つ。




「「誕生日、一緒に過ごせ(ねぇ)(ません)!!」」





「「…えっ?」」





重なった言葉。
それを聞き返した言葉もまた、重なった。











「出張、ですか…」




お互いしばらく放心して、誕生日というのが今月あるお互いのものだと知り、ようやく落ち着いた。



そして互いに、訳を見せ合う。





「急に入っちまってよー…まだ先だからずらせねーか頼んだんだけど、ダメで…」


「そうですか…でも、仕方ないですね…お仕事なら」




社会人の銀時は、所謂便利屋を営んでいる。


その仕事の依頼で、今月末から来月の頭まで、西の果てにある場所まで泊まり込みで行くことになったのだと言う。



依頼内容は、とある人物の身辺調査および警護とあって、時期をずらすことは出来ないらしいのだ。
既に、飛行機のチケットは取ってある。




「んで、お前は学会?」


「えぇ。行かなきゃならない子が、インフルエンザにかかっちゃったらしくて…」




社会人の銀時に対して、妙は大学生。



学会が行われるのは、今度は遠い北の果てだった。



学会の日、かつ銀時の誕生日は来週といえどあと数日しかない。
インフルエンザウイルスを、沢山人が集まる場所に持ち込むわけにはいかないということだ。





「ごめんなさい…大丈夫なの、私と先生くらいしかいなくて…」


「あー…まぁ仕方ねーんじゃね?
いいよ、毎年のごとく誕生日は一人で過ごすことにするわ」


「…寂しくないんですか?」


「毎年のことだからな。その学会、大事なんだろ?だったら無理して一緒に過ごすこたーねぇよ」




妙と付き合い始めてから、まだ数ヶ月。共に過ごす最初の記念日だと浮かれてはいたが、学生の本分だ。我慢我慢。



しかし。




「…随分あっさりしてますね…楽しみにしてなかったんですか?」


「は?ちげーよ。一緒にいてーのは山々だけど、お前学生だろ?だったらそっち行けよ、他にいそうにねぇなら」


「…私のお祝い、楽しみじゃないんですか?腕を振るってご馳走作ろうと思ったのに…」




そこは端から期待していなかったが、柄にもなくネガティブなことを言う妙に、銀時は少しカチンと来た。


そのカチンが、始まりの合図を示すことになるとも知らず。




「お前こそ、あっさりしすぎじゃね?新八や神楽だけで行かせろー、とか言わねぇの?」


「そんな危ない依頼、あの二人だけじゃ心配でしょう?」


「じゃあ何?コレがただの猫探しとかだったら言った?」


「そういう問題じゃありません!
開店休業中のお店に依頼が入ったんですから、そっちを優先するべきでしょう?」


「俺だってどう祝おうか色々考えてたんだよ!俺の誕生日もそれなりに楽しみだったし、なのに“そっちを優先するべき”だぁ?」


「銀さんだって、“無理に一緒に過ごすことはない”?私がどれだけ先生を説得したか知ってるんてすか!?」


「俺だって向こうさん説得したわ!最近お前がゼミで忙しくて全然会えねぇからせめて誕生日はって思ってた矢先だぞ!それなのにお前なんつった?どっち優先するべきだって?」


「そんなつもりで言ったんじゃありません!」


「じゃあどういうつもりだよ!三百文字以内で答えろコノヤロー」


「銀さんは社会人なんですから、仕事を優先しなきゃって言っただけですよ!あっさりしてるのは銀さんの方でしょ!?」


「意味同じだろうが!何で分かんねぇんだ!」


「こっちのセリフです!」




売り言葉に買い言葉。
状況が何一つ改善しないまま、険悪な雰囲気と罵倒だけが増大していく。



楽しみにしていた。始めて一緒に過ごす誕生日。盛大に祝いたかった。
しかし、そちらの方が社会人として、学生として優先されるべきなのだから、自分のためにそれを放り出さないでくれ。



言いたい主旨は同じのはずなのに、一向に噛み合わない。



興奮してか、先ほどまで慎ましく正座をしていた二人はいつの間にか炬燵を挟んで対峙していた。





どちらが悪いか、なんて聞くまでもない。どちらも悪い。それは、銀時も妙も分かっているはず。



言い過ぎた、ごめん。
たったそれだけ言えば丸く収まる。そう分かっていても、こびり付いたプライドと見栄が邪魔をして言えずにいた。



銀時は何としても思い知らせてやりたかった。どれだけ自分が楽しみにしていたかを。
どれだけそれが砕けて悲しいかを。
どれだけ、妙を思って苦しんだかを。




言葉にすればきっと伝わるのに、銀時は違う道を選んだ。選んでしまったのだ。




「あーそうかよ!所詮俺はその程度かよ!分かった分かった、お前にとって結局、俺はそこまで惚れられてねぇってことだろ!だったら俺の代わりに誕生日一緒に過ごしてくれる男見つけりゃいいだろ!」




それが、最大の失言だった。
人というものは残酷で、相手を傷つけることで自分の苦しみを払拭しようとし、かつ相手に自分の痛みを分からせようとするのだ。





その言葉に、これまで息を切らしながら銀時に言い返していた妙が、急に黙ってしまった。



てっきり、また売り言葉が帰って来るか、絶対に嫌だと言われるかと思ったのだが。



その言葉で、先ほどまで睨み付けていた目は伏せられ、女らしからぬセリフを吐き出していた口は閉じられ、荒々しかった息は静かになり、鬼のような形相をしていた顔は俯いた前髪に隠れてしまった。




その反応に、銀時はようやく自らの失言に気付く。


気付いた時点で謝ればよかったのに、ちっぽけなプライドや意地がそれを阻んだ。




「…お妙、」




炬燵を回って妙に近付く。
先ほどまで興奮のあまり紅潮した頬に手を当てようとすると。




「ッ…!」




睨まれた目が濡れていたことに驚く間もなく、頬に衝撃。



熱を持ったように、ジンジンと痛む。




「…今日は、帰ります。夜遅くにお邪魔しました」




俯いたままゆっくり銀時に背を向けた妙は、荷物を手に取って玄関へ走る。




結局、追いかけることも、送ろうか、と言うこともできなかった。





神無月の、始まり。
銀時と妙、忘れることもできないような二人の一ヶ月の、始まり。












(ちょびっと不穏な感じで始まった銀妙バースデー。どうやら落として上げるのが好きなようです私)

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