Wizard's Story scene2/Olga's tower ホリゾンブルーの癖毛に同じ色の柔らかい瞳。あの不思議な青年の名はヒースと言うそうだ。ソニアの脳裏に、始終顔に浮かべている柔和な笑顔が浮かんだ。 ▽ ▽ ▽ 自然に囲まれた小さな駅。自然の色を強く残すその駅で、ソニアはヒースを待っていた。ソニアとヒースが対面したあの日から三日が経っている。 暇をもてあましたソニアは無意識のうちに手に取った飴玉をいじった。里帰りだと思われたのか、恰幅の良い車掌に「一人でえらいね」などと言われ、もらったのだ。 閑散とした無人の駅がタダ乗りをする者などいないことを語っている。この寒さだ、駅員達は皆、詰め所にでも引っ込んでしまったのだろう。 学校の制服である濃紺のワンピースとえんじ色のリボンが風にたなびいた。ソニアはこれ以外に服を持っていなかった。 学校では着用が義務付けられていた三画帽はかぶっていない。それだけで、どこか身軽になったような不思議な感覚がした。 張り詰めた糸のような空気が体を刺す。でも、今はそれが心地よかった。澄んだ空気を肺に満たすように、ソニアは思い切り息を吸う。 知らない土地に来た。 誰も、自分のことを知らない。 さびしくは、ない。学校は確かにソニアの居場所だった。ただ、"帰る場所"ではなかった。ソニアに"帰る場所"はない。だから、どこへ行こうとさびしくはなかった。 ふと、頬にひんやりとしたものが触れた。手を頬にやってみると、わずかに水滴がついている。 山の天気は変わりやすい。午前中に覗いていた太陽は影もなく、代わりに灰色のぶ厚い雲が空を覆っていた。その雲がソニアのもとへ雪を降らせている。 散り際の花の様に、ひらひらと雪が舞う。幻想的な光景の中にソニアは人影を見つけた。 見覚えのある長身はヒースだ。 あちらこちらにはねている癖毛に、灰色のシンプルなローブ。全体的に淡い色合いのヒースは、じっとしていれば雪に溶けてしまいそうだった。 それに比べソニアは頭の先からつま先まで真っ黒。雪の中にできた一つのしみのようだ。 「俺としたことが女の子を待たせちゃったね」 さくさく、という音を伴ってヒースはソニアに歩み寄る。人の気配さえ消してしまうような、無音の雪だった。 ソニアはぺこりと頭を下げる。 「それじゃあ行こうか」 ヒースがやや先頭に立つように歩き始めた。ソニアはその長身を追いながら、決して隣には並ばなかった。雪が二人の音を吸い取ったかのように、言葉を交わすことなく進む。 そして、不意にヒースが振り向いた。 「手、繋ごう」 突然の申し出に、一瞬驚いたような顔をしたソニアは、断る理由もないので、ややってから手を差し伸べた。ソニアの小さな手をヒースは包むように握る。 大きな手のひらはほんのりと温かく、ソニアの小さな手のひらが徐々に温まっていく。 子供である自分より高いヒースの体温に、ソニアはくすりと微笑んだ。 「あったかい……」 そう呟き、横にいるヒースを見上げると、いつもとは違った笑顔を浮かべる彼がいた。 次へ> [戻る] |