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Wizard's Story

scene1/Sonia



02:pity

「やはりフォンドレール伯爵はソニアの受け入れを辞退なされました」

 西日が鮮やかに舞い込む校長室。来客を接待する為の豪華な応接間とは違い、簡素で実用的な造りになっている。
 渋い色合いを醸し出している一枚板で作られたデスクに、妙齢の女性が腰掛けていた。
 女性から発せられる貫禄は決して若者のそれではないが、微笑みが絶えないその顔は若々しく、見た目だけでは年齢を推し量ることができない。
 この学校を束ねる校長と、机を挟んで向き合っている女性が一人。
 彼女は、先ほど伯爵の世話係となっていた女性だった。

「急なことですが、明日(ミョウニチ)にもお客様がいらっしゃいます。ソニアと面会を希望されるので接待をお願いします」
「お言葉ですが……」

 校長の言葉を、彼女が遮る。
 学校の長は怪訝な顔をすることもなく、微笑みを浮かべて先を促した。

「もう、ソニアをお客様に引き合わせるのはお止め下さい」

 すると、校長は小さな驚きの表情を浮かべた。

「あら、どうして?」
「お客様に会う度に、あの子は深く傷つけられています」
「少し、落ち着いて――」

 すっかり興奮しきった彼女をなだめる為に、校長は声を掛ける。だが、彼女はそれさえも押さえつけるようにまくし立てた。

「あの子は――目が見えていないのに!」

 組んでいた足を交差し直し、校長は小さくため息をつく。
 机の前に一人立たされている女性は、大声をはりあげたことでようやく自身を取り戻したのか、もぞもぞと身じろぎをした。

「チェルシー、あなたは行く行く、学校を任せられる立場にいるのです。そのあなたが私情で判断を下すとは嘆かわしいばかりですね」

 校長の言葉に、チェルシーはきゅっと下唇を噛み締める。
 そんな彼女の様子に、始めて校長の顔から静かな笑みが消え去った。

「あなたのその同情が、あの子を恐れている目と同じように……いえ"それ以上に"傷つけていることに、まだ気がつきませんか?」

 校長の言い放った言葉に、チェルシーははっと息を飲んで、手を口へ当てた。
 自らの過ちを知ったその手は、僅かに震えている。

「……明日いらっしゃるお客様のお名前はヒース・ラングフォード様です」
「ラングフォード様……」

 チェルシーは、なにか思い当たる節があるのか、その来客の名を復唱する。

「封断の魔術師、と言えばわかりやすいですか?」

 にこり、と小首を傾げた校長の顔には再び柔らかな笑みが張りついている。

「あの有名なマスター・ヒースですか?」

 魔法大国の別称でも知られたこの国では、国王に認められた有能な魔術師が異名を授かり、男ならマスター、女ならレディを名乗る資格を与えられる。
 ヒースの場合は"封断の魔術師"が異名であり、マスター・ヒースと名乗ることもできる。
 かく言う校長も"微笑の魔術師"の異名を持ち、レディ・レイチェルと呼ばれている存在である。

「彼ならソニアを正しい方向へ導いてくれると、私は信じています」

 くすり、また小さく微笑むと校長は再びチェルシーへ視線を向ける。
 そして学校では恐らくレイチェルしか気づいていないであろう小さな秘密を、彼女に打ち明けた。

「それにね、ソニアは目が見えていますよ。あなたが思っているよりずっとね」


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あきゅろす。
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