Wizard's Story
scene3/Rufa
01:sistersT
まっすぐな瞳と目が合う。たまらなくなって、私は視線をそらしてしまった。
▽ ▽ ▽
私が魔法を習っているオルガの塔に、先日、新しい仲間がやってきた。名前はソニア。都会で魔法を習っていたらしい。どんな子かと楽しみにしていたら、私よりもずっと年下の女の子だった。年下といっても、都会で教育を受けただけあって、魔力も制御も私より格段に上で頭もいい。
最初はこんな小さな子よりも自分は劣っているのかと落ち込んだりもしたけれど、今では反対にソニアを尊敬している。「才能より努力」という言葉もあるし、きっとソニアにも、私の知らない苦悩の日々があったのだろう。
――でも、私はソニアが苦手だ。
まだ笑顔を見せてくれることは少ないし、ちょっと他人行儀なところもあるけれど、むしろ、同じ魔法を学ぶ仲間としてソニアとは仲良くなりたいと思っている。
確かに私はジークさんと違って、それほど人と話すことには積極的ではない。かといって人見知りをするほうかと聞かれれば、それも少し違う。
ソニアと二人きりになることも何度かあった。それでも何を話そうかと考えている間に、ソニアはその場を立ち去ってしまうのだ。
――私は、ソニアの目が苦手だ。
ソニアは、なんだか不思議な目をしている。生まれて初めて見る墨色の瞳で、いつの間にか私はその目にひきつけられている。
そうして調子に乗って彼女の目を見つめていると、彼女も私を見つめ返す。「お前は汚いやつだ」あまりにもきれい過ぎる瞳に、言われてもいないのにそんな言葉が脳裏に浮かぶ。自意識過剰だってことは十分理解している。でも、視線だけで力いっぱい拒絶されているような気分になってしまう。それが少し、悲しい。
「あ、」
リビングの扉に手をかけると、二人がけのソファのはしに、ちょこんとソニアが座っていた。
本を読んでいた目を一瞬だけ私に向けると、再び読書へ戻っていく。
私の馬鹿、大馬鹿。なんで声なんか出したんだ。
思わず声を上げてしまったことに、自分自身で叱咤しながら私もソファへ向かう。クリーム色のソファは私とソニアの定位置だ。
どうすればソニアと仲良くなれるだろう? もうヒースやジークさんとなら普通に会話をしている。私はいつもこうだ。みそっかすで、何をやってもうまく行かない。所詮は魔力をもっただけの田舎娘だ。
「ルファ」
くだくだと卑屈なことを考えているうちに、きょとんとしたソニアの顔が前にあった。思考から抜け出したことで、私の体がびくりと震えた。きっと今、私は驚いた顔をしている。なんでも顔に現れてしまう自分を心底忌々しく思った。
「座らないの?」
ソファの横まで来て立ち止まった私を不審に思ったのだろう、ソニアは私に尋ねた。上手くできたかはわからないが、落ち着いた顔を作り私もソファに座る。
ソニアが読みかけの本を閉じた。表紙にはなんとか理論と書かれている。私には一生かかっても理解できなさそうな内容だった。
どうやら彼女も私を意識しているようで、落ち着かない様子で本を何度も持ちかえている。緊張しているのは私だけではないようだ。
そう思うとなんだか可笑しくなった。そうだ、当たり前のことだけれど、どんなに魔法が上手くても、頭がよくても、都会で育っていても、ソニアも私と同じだ。緊張しているのは私だけではない。
「私は、ここよりもっと王都から離れた湖水地方で育ちました。ロップランドという平凡な田舎町で、両親と兄と私で毎日畑を耕してた……」
自分でも強引な話し出しだと思った。でも、意外なことに、ソニアは真剣に話を聞いてくれているようだ。とはいえ、ほとんど勢いで話し始めてしまったのでこの先、どうつなげていくかなんて微塵も考えていなかった。もっと何か話さないと……。
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