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61000。


俺は今告白をした。
明日、俺ではない男(ひと)のものになる女(ひと)に。



「好きです。名前さんが、好きです。」



人生で初めての告白。



答えなんてわかりきっていた。


それでも、最後の最後で足掻いたのは、本気で好きになってしまったからだ。




『‥ありがとう。』



彼女は淡く微笑んでくれる。
困った表情を見せない、それは彼女の優しさだ。



『…ほんとに、嬉しいよ?
でもね、あの人…私がいないと駄目な人だから…』



彼女はここにはいない人の事を想い、優しい顔をする。



「日番谷隊長から奪いたいとか思ってないんす。ただ、知っていて欲しかった、だけで…」



それは半分ぐらいの真実と。
半分ぐらいの嘘。



「こんな事聞くの、狡いかもしれないけど…日番谷隊長がいなかったら、答えは違ってましたか?」



柄でもない。
握りしめて、体の横に押し付けていた手が震える。





彼女が悲しく笑ったのがわかった。




『そうね…きっと、修兵君を好きになっていたわ…』



どうしたら、手に入るのかずっと考えていた。
日番谷隊長が居なければ‥何度も思ってた。
でもきっと、日番谷隊長が居なくても、彼女は俺のものにはならないだろう。
そう、感じた。



「それだけで十分っす。
結婚、おめでとうございます…お幸せに…」



そんな言葉を吐いて、彼女を残してその場を去った。
これ以上ここにいたら、俺は多分最低な人間になっちまうから。



月が儚く揺らぐ。
夜気の匂いが酷く虚しく切なくさせた。








『…冬獅郎と、出会って、なかったら…なんて…』



修兵君の気持ちは何となく、気付いていた。

修兵君はとてもいいこで、
とにかく、笑顔が素敵な人で、
一緒にいると楽しかった。


だから、彼の気持ちが少なからずわかっていたのに、離れてあげる事が出来なくて。
修兵君といる事に安らぎを覚えてしまっていたのかもしれない。



でも、私には愛している人がいたから、修兵君への煮え切らない気持ちが、自分を締め付けて、
そんな時に彼が‥冬獅郎が私に婚約の話をしてきた。

断る必要なんてなかった。
彼は私を愛していて、
私も彼を愛していた。



でも、修兵君が私の中にいたのは事実で、
私にはそれが恋なのかそれともただの癒しなのかわからず。
修兵君は言った。
私を好きだと、冬獅郎が居なかったらと…




『そうね…きっと、修兵君を好きになっていたわ…』



それはきっと事実だったと思う。

でも、だからこそ気付く。
私は修兵君を愛していたわけではなかった事。





言葉を呟きながら、想ったのは他の誰でもなく冬獅郎だったから…





「名前」



小さく私を呼ぶ声に振り返る。
私にとって最も愛しい人が立っていた。











「…ッ」



そこには微かに檜佐木の霊圧が残っていて、俺は思わず彼女を抱きしめていた。
彼女の事を愛してる、だからこそ檜佐木の存在が怖くて婚約という契約で彼女を縛りつける行動をとってしまった俺。
きっと彼女は気付いてる。
俺の意図に。



『どう、したの?』



優しい声色が俺の胸の中に落ちる。
いつもそうだ。
俺がどんな事をしても絶対に怒らない。嫌がらない。
それは余計に俺の不安を駆り立てるばかりで。


だってもし彼女がそれで苦しんでいたら…
俺は、自分を恨むだろう。
自分勝手で我が儘な自分を。



『冬獅郎?』
「‥お前が、どっか行っちまう気がした…」



俺は彼女を守るためならどんな事でも出来る。
卑怯な手を使う事も、残酷な事をするのだって臆さない。
でも、いつだって、そんな俺を彼女が見捨てる日が来るかもしれない事が密かに怖かった。
いつからこんな弱くなったのか。
彼女に対してだけは、どうしようもない。



『私は、何処にも行かない…だって、貴方を愛してるんだもの』



抱き締めていた腕の力が緩んで、その代わり俺の腕から抜けた彼女が俺の唇に自分のそれを優しく押し当てた。
それは温かくて、甘くて、俺の焦りや不安を消して行く。



『ずっと傍にいる。だから冬獅郎も…』



不意に彼女の言葉が詰まる。
初めてだった。彼女が泣きそうな目で俺を見据えるなんて。
その瞳から受け取れるのは痛い程の懇願。



「俺が名前から離れるわけないだろ… 」



彼女は安心したように笑って、一筋涙を溢す。


だから俺も彼女に笑いかけて、彼女の頬を伝った涙を拭った。




俺達はいつだって手探りで、
探していた。



お互いの存在を。

















(幸せがある事を祈っていた)






(幸せになれる事も)








20100317.


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