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修兵


ずっとずっと好きだった。
誰より、
何より好きだった。
こんな気持ち持ってちゃ駄目だってわかってる。
私からすれば私と貴方は他人だけれど、



貴方からすれば、私と貴方は兄妹だもの。




わかってるけど、好きで、好きで、
嫌いになんてなれなくて、
どうしようもない気持ちに振り回された。


何度も言ってしまおうって思ったけど…言えなかった。






もう笑ってくれなくなるかもしれない事が怖くて。







守ってきた。
必死に必死にこの気持ちを抑えてた。



だって、私にはどうしても貴方が必要だったから。



一生懸命縋ってきたの。
兄妹という、一番切ない位置に。





「名前ー修兵の事起こしてきてー」
『はぁーい』



私がこの家の養子だと知ったのは5年前の事。
いつもなら絶対開けない引き出しをなんの思いもなく開けた事が原因。
血の繋がりがある兄だと思っていた修兵を好きになって8年目の事だった。

だけど悲しくも、辛くもない。
だって私は本当に愛情を貰って生きてきたから。
それを知っているから、平気。


それに…心の何処かで安心していた。
兄に恋をしていた妹じゃなくて、
修兵という一人の男に恋をした女であった事を。





『しゅーへー朝だよ起きて』



ガンガンと扉を叩いても中から人が目を覚ました雰囲気は微塵もなく、仕方無く修兵の部屋の扉を開く。
開いてみたら案の定、修兵は布団を頭まで被ったまま寝続けているらしい。



『修兵ー』



布団を被った修兵の体に乗っかると、修兵は変な声を出す。




「うっ…下り、ろ‥」
『じゃあさっさと起きな。遅刻するつもりなの?』
「起きる、って」



修兵の体から下りると、修兵は勢いよく起き上がり何度も咳払いする。



『早く起きなきゃ雛森先輩来ちゃうよ馬ー鹿』



修兵は、1ヶ月ぐらい前から同じクラスの雛森桃先輩と付き合っている。


嫌だったけど、そんな事言えるわけがなかったし、
言える権利だって私には無くて…



『じゃあ私は先に学校行くから』
「おう。あ、名前!」
『何?』
「今日早く帰って来いよ。雛森がお前と飯食いに行きてぇって」



私は部屋の扉に手をかけて、修兵を見ると最大限の笑顔で笑った。



『りょーかい。じゃ、行ってくるね。』
「やべ、俺も用意しねーと」



階段をかけおりる。
馬鹿みたい。
なんで笑顔で返したの私…
ほんと、馬鹿過ぎて話にならない。






「あ、名前ちゃんおはよ」



玄関には雛森先輩が立っていた。



『あ…おはよう、ございます…』
「檜佐木君起きてる?」
『今起きたばっかです、すみません』



雛森先輩は名前ちゃんのせいじゃないんだから謝らないでと淡く微笑む。



「そうだ!檜佐木君には言ったんだけど、今日の夜平気?ちょっと名前ちゃんともお話したいなって思って…あ!よかったらなんだけど…」
『はい、平気です。楽しみにしてますね。』



今だって修兵に彼女がいるだなんて嫌で嫌で仕方無い。
でも、雛森先輩が本当に良い人だから…そういう気持ちでいる事に罪悪感すら感じる。
嫌な人なら良かった。
嫌な人なら良かったのに…





いつもの通学路が歪んでいた。
心が痛くて、堪らなくて…
頬を伝うものが止まらなかった。
















『ただいまー』



家に帰ると、仕事に出掛けている父の靴と多分友達と出掛けたんであろう母の靴が無くて、あったのは修兵のローファー。



『帰ってるんだ…』



リビングを開けるとソファーの上には人の姿。





修兵がソファーの上で眠っていた。




修兵の側まで行くと、修兵の寝顔が視界に映る。
ただそれだけの事だけど、泣きたくなった。


修兵の事が好き過ぎて胸が苦しい。


どうせ修兵に告う気も、ないのに…



だって…兄妹なら修兵は私の事見てくれる。
名前を呼んでくれる。
笑って くれる…


だから我慢出来ていたはずだったのに…


どうしてこんなに気持ちが溢れそうになってしまうんだろう。

なんで…
こんなに好きなんだろ…



『しゅ、へ…』
「………」






『‥ずっと、好きだった…ッ』




そんな自分の行動に耐えられるわけなんて無くて、
急いで自分の部屋に駆け込む。
初めて部屋の鍵を閉めた。



あんな事を口走るなんて有り得ないし、
そんな事して平気で居られれる自信がない、だから…言わなかったのに…
修兵を見てたらずっと抑えていたはずの感情を止められなかった。



『バカ、馬鹿‥ば、か…』


だけどそれはどうしようもない事実で






「名前!」



部屋の扉を叩かれて、
私を呼んだその声は修兵の声。




『ッ…』
「さっきの、何…?」



頭が真っ白になる。
知られてはいけない気持ちだったから。
気付かれてしまったら、今までと同じではいられない。
それを恐れていた。
それを私は…誰よりもわかっていたはずだったのに…



『‥……』
「なぁ名前…なんか言えよ…」



修兵の声が苦し気だった。


修兵は何も悪くない。
悪いのは、たとえ血の繋がりが無くても兄という存在を好きになってしまった私だ。





困るよね
気持ち悪いよね


そう思えば思う程涙は勝手に溢れて、



「名前…『私、好きだったの…修兵の事…』



もう隠せないと思った。
誤魔化せないと思った。


いつだって抑えつけてる気持ちはギリギリで、
すぐに溢れそうで、
結局は溢れてしまった。
それなのにまだ知らないふりなんて出来ない。
もう、限界…



『ずっと、ずっと好きだったよッ…大好き だった…修兵とちッ』



思わず、血が繋がってないって事を口走りそうになった。
それだけは、言っちゃ駄目。
修兵は何も知らない。
お父さんもお母さんも私がそれを知ってるなんて知らない。
知らないふりを通して、
好きになってごめんね、
ちゃんと兄妹の気持ちに戻すから嫌わないでって言わなきゃ。


だって修兵に嫌われたら私は生きていられない。





『‥わかってる。私達は‥兄、妹で…だから!
ちゃんと、普通に戻すからッ…』




服の裾を強く握る。
掴んだ掌は小さく震えていて、
心は契れてしまいそうなくらい痛んでた。



大丈夫…いつか受け入れなきゃいけないとわかってたから。
そのいつかがやってきただけ…




「‥名前、ここ開けてくれ」




修兵は低い声でそう一言。
私はゆっくり鍵を開ける。
小さな音が痛いくらい耳に残った。


扉を開けば、立っているのは間違いなく修兵でその顔は何処と無く真剣で、
修兵は部屋の中に入るとベッドの上に座る。


体が強張っているのがわかった。
修兵の方を向けない。
修兵はそんな私の名前を優しく呼ぶ。



「俺は、お前への気持ちをなくすため必死だった。」



まるで頭を思いっきり殴られたようだった。

だってそんな話信じ、られない…



「信じられねぇって顔してる。そりゃそっか…でもマジ。名前の事好きだ。」



冗談だと受け入れるには修兵の態度も声も何もかもが真剣過ぎたし、何より私自身がその言葉を信じたくて。



「ずっと思ってたんだけどな…名前は俺の事兄妹としか思ってねぇって…
それでも俺は、お前の事兄妹なんて思った事は一度もない、んだ‥」



ただ嬉しかった。
修兵の気持ちがただ嬉しかった。





『しゅ…へ…聞きたい事あるの、聞いていい?』
「あぁ」
『私が…修兵と‥血が繋がって、なかったら、どうする?』



そんなの聞いてどうするのか。
だって聞いても言えない。
私達が実は本当の兄妹じゃないなんて。




「‥知って、たの か?」
『え…』
「俺達本当は、血が繋がってないって…」
『‥修兵こそ、知って…たの?』



それは大きな驚きと、
小さな安堵。



「ずっと言われてた名前に手は出すなって…でも、名前が俺の事好きなら問題ねぇよな」



修兵はそう言って笑い、
私の事を抱き寄せる。



『な、しゅっ‥だ、駄目ッ!!』



修兵の顔が私の顔に近付いてくるから思わず突き飛ばす。
だって、そんなの、雛森先輩はどうなっちゃうの?



「あのさ、なんか勘違いしてっけど俺と雛森は付き合ってねぇよ?」
『は…?』
「や、確かに雛森には告られたけど…付き合えるわけねぇじゃん。だって俺名前の事好きなんだもん」



びっくりし過ぎて何も言えない私をよそに、修兵はだから何の問題も無いわけと口にして、私の唇を奪う。



『っん…』



重なった唇が熱かった。



「‥はい、ご馳走様。」
『ッ…///』
「あー親父にぶっ飛ばされっかも。なんたって…名前馬鹿だもんなぁ…」



沢山悩んだから。
沢山泣いたから。
だから、これから先の未来はどうか幸せである事を願う。



それは大切な人が傍にいる事。



単純だけど、難しい事。




「でも絶対手離したりしないから…愛してる」
『ばか…私だって、ずっと愛してるよ…』




たとえば、周りにこの愛は否定されるかもしれない。
でもね、それでもいい。
それくらいで気持ちが薄れたりしない事を知っているから。





「‥じゃ、もう一回キスしとくか」
『はぁ?あ、ちょ‥っ』






だって、禁断と知りつつ、今まで必死に恋をしてきたから…










人の意思というものは、それほど甘くはない


(いつか忘れられるなんて、)
(そのいつかは、)
(やってくる要素がなかった。)






20100228.


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