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長編
擬似恋愛 12






背中には彼奴の感触が微かに残っていて、
頭の中には彼奴の震えた声が残ってた。









12



『‥…』



目が覚めた。

瞬間何故自分がここにいるか考える。


放課後呼び出しされて…
体育倉庫に閉じ込められて…出れなくて…
そうだ…誰かが助けにきたんだ
誰…だっけ…


ふと思い出すのは自分が泣いた事。
そこから記憶がない事。
だけど、優しい温度が自分の身体に残っている事。



「目覚めたか」
『一護?私、どして…』
「‥日番谷が…」



そこまで言われて全てを思い出した。


助けにきてくれたのは日番谷だ。



『もしかして…』
「日番谷がここまで連れてきた、亜依美の事。」
『日番谷は…?』
「帰った。」



私はベッドから起き上がる。
理由なんてない、ただ行かなきゃ、そう思って。


けれど私の身体は動く事を許されない。



『離して…』



一護が私の腕を掴むから。



「行くな」



きっとこの手を振り払って日番谷を追いかけるのは間違っているんだろう。


でも、私は…



『ご、めん』



力無く一護の手が滑り落ちたのがわかった。
私は部屋を出る。


日番谷を追いかけてどうするのか、どうしたいのか、
何一つわからない。



『日番谷ん家ってどこよ…』



そんなものわかるわけがない。
私達は愛を確かめあったような恋人同士なんかじゃなかったんだから。
ただのクラスメートにすぎなくて、
もう口をきく事だってままならないような関係で、


わかってる。
追いかけた所でどうしようもない事も、
それをした事で、一護を傷つけたという事実も、
自分の気持ちを、確実に認める事になるんだという事も、
全部全部わかってる…


それなのに、どうしても止められなかった。



ただ一目でいい、彼が見たかった。




『あ、そだ…携帯…』



制服に入ったままの携帯には、日番谷の連絡先が入ってる。
無視されるかもしれない、だけど…何かをしないよりは全然ましだ。




携帯を開くと、不在着信が1件あって、
それは日番谷からのもので、
なんだか不覚にも泣きそうになる。



『っ…』



「‥…?」



その声に振り返ると日番谷が少し驚いたような顔で私を見ていた。




「なんでこんなとこに…」
『日番谷の事探してて…』
「俺を?」
『謝らなきゃと思って、あたし…』



言葉はそれ以上出させてもらえなかった。
言葉に詰まったわけでも、
日番谷に言葉を閉ざされたわけでもない。




「日番谷君!」



『………』
「お前、なんで…」



色んな想いが交錯してる。



「だって…日番谷君が亜依美ちゃんの事助けちゃうからさ…予定狂っちゃって…」



雛森はそう言うと私を見て不適に笑う。
それは綺麗で、恐くて。





私は知ったんだ。
人を愛する気持ちは、
時に人を狂わせるという事を。





(お互いに惹かれ合うならば、素直に心に従っても構わない)



20100409.



あきゅろす。
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