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長編
擬似恋愛 1


『私達付き合わない?』
「俺はお前の事好きじゃない」
『あたしだって好きじゃない。』
「は?」
『だから、擬似恋愛。お互いがお互いを利用するのよ』






擬似恋愛の最大の掟‥



それは恋しない事。
即ち、相手を好きになってはいけない…







1




「3組の亜依美と日番谷君付き合い始めたんだって!!」
「まじで?!いきなりなんで?!」
「でもお似合い過ぎて文句言えないわぁ…」



周りの反応は狙っていた通りだった。


女子から有り得ないくらいモテる日番谷と、
何故か男子からモテてしまった私がくっついたのだ。
殆どは引いてくれる。



ただし、
日番谷より自分は劣ってない、
私より自分は劣ってない、そう思う奴等を除くが。


まぁ思ってるぐらいは大したことではない。
本当に。







擬似恋愛は中々順調…



『‥くっつくな』
「俺がいつお前にくっついた」
『五月蝿い。刺すよ』
「傲慢な女だなテメーは」



と、そんなに簡単にはいかない。



それでもお互い面倒くさい告白や誘いが大分減った。

それだけでこの擬似恋愛は優秀な成績を見せている。




亜依美ちゃんってさ、日番谷君の事好きって言ってたっけ…?」



酷く言い辛そうに質問を並べてきたのは桃…もとい雛森。


私が知ってる限りで男子からも女子からも評判上々、
性格も表向きは最高評価を与える事が出来る。

しかしそれがほんとの性格だと思ってない私は裏で彼女を苗字で呼ぶ。


そして彼女の好きな人は日番谷──‥



『…入学式の時の入学生代表読む日番谷に一目惚れしてたんだ…』



自分でも感心するぐらいスラスラと嘘が出た。

だいたい入学式の代表祝辞なんて寝てたっつーの。




「お似合い、だよね…」



お似合い?そんな顔、微塵もしてないじゃない。
強いて言うなら…私との方が釣り合ってるわ的な顔?
口にしては絶対言わないけど。



『そうかな…?日番谷人気あるからちょっと心配‥』


複雑そうに、恋する乙女っぽく。
あたしは将来女優になれると思う。



『じゃあ、あたしもう帰るから』
「あっ、うんバイバイ‥」



雛森から視線を外すと眉間に皺を寄せた日番谷がいる。
多分俺を待たせてんじゃねぇって所だろう。



『‥……』
「………」
『‥‥‥』



一緒に帰っているからといって何か話す事はない。
だってこの共に下校は義務だ義務。



「お前さ…」
『…何』



日番谷は私の方を一度見るとすぐに目を反らして溜め息を吐く。
日番谷から吐かれた息は白くて、今の気温が低い事を思い出す。



「よくもあんな嘘ペラペラと…」



主語がないその言葉にだいたいの検討がついた私は、こいつ話聞いてたのか、そんな事を思った。



『あれくらい出来なきゃやってけないの』
「お前代表挨拶ん時とか寝てたろ」
『‥よく知ってんね』
「壇上にあがれば寝てっか寝てねぇかぐらいすぐわかる」



納得しかけてハッとした。
あんな殆ど顔もわからないような初対面の席で、
ましてや人の顔を覚えるなんて無理だと豪語する日番谷があたしを覚えてた…?
気持ち悪い。なんだそれ。



『あんたまさかあたしに惚れてたりしないわよね…?』
「‥んなわけねぇだろうが。変な妄想してんじゃねぇ!」
『五月蝿い!いい?!』




日番谷に詰め寄ると、日番谷は眉間にいつもの倍の皺を寄せる。







『うちらの契約条件。
お互いに恋愛感情を持たない、忘れないでよ』









(あたし達はただお互いがお互いを利用している関係性。)



20100127.



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