ソロ軍団シリーズ異世界珍道中編




《Act.1》
 ギルド単位ということで男四人で借りているアパートの部屋は狭い。全員が居間の机に揃ってつくと、必ず誰かが誰かの脚を蹴るほどだ。
 スイートジェントルを被ったホワイトスミスが、正面のハイプリーストの脚を蹴らないように身を縮めて喋り出した。
「最近監獄ばっかだから、そろそろ狩場変えようと思うんだけど、どっか行きたいところとか」
「ちょっ、先生さっきから俺の美脚ガンガン蹴ってんだけど」
「ああ悪い、脚が長いから」
「あ、そういうこと言う? 俺が短足っつってる? だから高身長でメガネなのにモテないんじゃね先生」
 プロフェッサーとチェイサーが与太話に花を咲かせ始めたため、ハイプリーストがネタを閃いてそこに加わる前に、ホワイトスミスは咳払いして強引に話を進めた。
「狩場だ狩場。前衛ばっか中火力の転生70台四人で行けると思う狩場挙げてくれ、もしくは行きたいってとこがあれば」
「エリザ! エリザ!! 機械人形工場!!」
「個人的にはピンギ一択」
「監視にstkされてる保護たんと慰めたんをSAVE THE YOJO的な意味でゲフェニア!」
「戦力で選べっつってんだろ!!」

 この物語は、モテない転生職の野郎四人がなんら恋愛的なハプニングもなくモテないだけの日常を送る虚しいストーリーである。


《Act.2》
 結局今回はプロフェッサーの意見が通り、四人は異世界へ向かうことになった。
「そういえばさ……お前ら異世界のクエストどんくらいやってある?」
 ホワイトスミスが水を向けると、ペットにするならソヒーかムナックかいっそポリンを調教して、とよくわからない話題で盛り上がっていた三人が振り返る。
「駐屯地のはいくつかやったけど、マヌクとスプレンディッドは手つかず」
「えー俺あんまやってなーい、食べ物くらい?」
「やばいな俺ノータッチかも……ちょい確認」
 ハイプリーストが冒険者登録証からクエストリストを出力し、三人もそれに倣う。
「俺もあんまやってない。ついでだし、知恵の王の指輪くらい手に入れておく?」
 四人とも、クエストリストの知恵の王の指輪は開始されていない状態だった。
「知恵の王ってーと……魔法学者のネーちゃんが駐屯地で貴重な美人だっていうあれか!!」
「盜虫から盗聴用の石を奪うあれか! 盜虫から盗聴用の!」
「ピンギにつんつんされながら言語メモを取る至福の作業が含まれるあれか」
「ミッドガルドの技術の粋が詰まった高尚なクエストだっつーの!!」

 この物語は、モテない野郎四人がなぜモテないかが見るだけでわかってしまうセンシティブなストーリーである。


《Act.3》
「ということで、みんなで知恵の王の前提クエストからやろう」
「いくつかあったよね、どれだっけ」
「食い物と食い物と食えない物!」
「もといチョコレートパイとおやつと報告書、早いのは。やってあるやつは? 僕は全部終わってるけど」
 プロフェッサーが適当な紙に四人の名前と進行表を書き込む。
「俺食い物系はやってあるー」
 チェイサーはチョコレートパイを食べた手を服で拭いている。カートからタオルを取り出して押しつけながら、ホワイトスミスが自分のクエストリストを確認した。
「俺おやつだけやった、お前は?」
 ハイプリーストはカートを勝手に漁り、預けてあったピンギキュラ用のファイアソードメイスを発掘していた。
「確か……男ばっかでいい歳して甘酸っぱホモくさいやつならやった」
「「「えーと、どれのこと?」」」

 この物語は、彼氏も彼女もいない野郎四人が世界を冒険しつつモテない日常を送るだけのハートフルストーリーである。


《Act.4》
 ということで、チョコレートパイクエストのために四人はスプレンディッドフィールド02へ出ていた。
「丈夫に見える木の枝全然採れないな……そろそろ俺のメンタルが丈夫じゃなくなりそう……」
「単なる確率勝負だから粘れ。ピンギは僕が引き受けるから」
 向かってくるピンギキュラに片っ端からスパイダーウェブをかけながら、プロフェッサーがやたらにスクリーンショットを撮っていた。チェイサーはトンネルドライブしながらあちこちうろつき、ハイプリーストは座り込んでひたすら木を探っている。
「なーなー『草』ってなに?」
「それは別のクエスト」
「カートターミネーション! カートターミネーション! ねえお前らお願いだからルシオラヴェスパ倒してください!! 俺もクエストやってないんだよ!!」
 ホワイトスミスが小銭をまき散らしながらカートを振り回すのを後目に、ハイプリーストはにっこり微笑んだ。
「じゃあ俺がこの青空のように綺麗な心で木の枝二人分採ってやるよ、仕方ないな〜もう」
「根本的に違っアアアアアカートターミネーションカートターミネーション!!」
「初めてなんだからゆっくり……ね?」
「早くしろよ!! 泣きたい!!」
 一方クエストが完了して暇なはずのプロフェッサーとチェイサーは、呑気にスパイダーウェブをかけたピンギキュラを観察していた。
「知人の教授がね、ピンギキュラは幼女キャラではなく触手キャラに分類すべきだと主張しているんだ」
「うわー下半身グロっ! モンスターだよな〜やっぱ。ダークって何? 枯れてんの?」
「それについては別種という説も含めて議論が激化していて」
「枝あと16本〜」
「チクショウ! お前ら自分勝手だからモテないんだよ!」
 半泣きでダークピンギキュラを落としにかかるホワイトスミスのカートにぽんと手を置いたチェイサーは、よく見ると弓すら持たずにサボりを決め込んでいた。
「まーまー落ち着いて。マスターは口うるさいからモテねーんだろ?」
「ほっとけ!!」

 この物語は、縁がある女といえばモンスターしかいない寂しい独身男性四人が社会の不条理と戦うバトルストーリーである。


《Act.5》
 チョコレートパイクエストもなんとか無事に終わり、結局ハイプリーストがやってあったのはおやつクエストということが判明し、報告書を少し進めて四人は知恵の王の指輪を開始していた。
「またピンギマップか……メモの用意だな」
「ごめんごめん、今度は俺も戦うから! DSでハチ落とせばいーんだろ?」
 黙り込んでいたプロフェッサーがふと顔を上げた。
「そっちはまだいい。僕らでブラゴレ倒せる?」
 ホワイトスミスが顔を青くしてカートターミネーション代を計算し始める。ハイプリーストとチェイサーはそのつもりではないようで、あっけらかんとしていた。
「倒す必要はないっしょ、メモ取ってる間と石を捜す間避けるか耐えるかすればいいんだし」
「そーそー、いけるいける!」
(……メモはいいとして、石がな……)

 数十分後、マヌクフィールド。
「ブラゴレってこんなに湧くもんなんだな……」
「もう……マスターってば早いんだから……」
「お前もだろバカ」
 ホワイトスミスとハイプリーストが地面に横たわり、プロフェッサーがかろうじて立っていた。
「これ蜘蛛切れたら僕も死ぬね?」
「「うん」」
「盜虫見失ったしもう帰っていい?」
「「うん……」」
 プロフェッサーが蝶の羽を手のひらでパンと叩き潰して消えるのと、スパイダーウェブと涙目ダメージのファイアーウォールが切れて、十体近いブラディウムゴーレムやヒルスリオンが動き出したのはほぼ同時だった。
「ねえねえ、そこでハイドしてる素人童貞君」
「失敬な、俺は普通に非童貞だよ! 素人童貞はそっちで転んでるマスターじゃん!」
「俺すでに財布に大打撃受けてるからこれ以上メンタル傷つけないでくれると嬉しいな」
 チェイサーはトンネルドライブでハイプリーストに近づく。
「なになに? っていうかこれ今日は無理だよなー」
「こんな激しい攻めじゃすぐイっちゃう……」
「黙れ。蝶使っちゃっていーい?」
 ホワイトスミスは、マヌクの暗い空を仰ぎながらしみじみ溜め息をついた。
「あんたのヒールはもっと激しくてもいいんだけどな」
「えっ、俺は節操ある身だからそんな……」
「「どこが?」」
「あっそうそう、帰る前に一つ頼みごとがあるんだ」
 ハイプリーストはそう言うと、久々に真面目な顔になった。
「これを仕掛けたアサシン部隊とやらをパパッとヤってきてくれ、弓でも短剣でも棒でもいいから」
「いや棒はねーよ」
「宿舎に一人いたろほら、頑張れ頑張れ」
 ホワイトスミスが心底呆れた表情で、チェイサーがいるであろう辺りを見る。
「この神父様アタマおかしいからもう帰っていいよ、俺も戻るから」
「はーい」
「嫌だ俺は帰らないよ!! 特定の認証パスワードとか魔力波反応とかにすりゃいいのにワケわかんないゴキトラップなんか仕掛けるアサシンどもの一人や二人徹底的に***して……二人ともなんでいないの!!」

 この物語は、思春期の男子学生のような低級な下ネタを繰り広げる二十代後半のモテない男四人による異世界珍道中などを含む時々旅情ストーリーである。


Go to next stage!!




201111
 























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