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Spica
もう子供じゃない


「どうかしましたか?」


「あ…颯斗君」



彼がいたことに驚き、考えもなしに教室に逃げ込んだ私は一人、机に突っ伏していた。



「さっきのが、夜久さん?」

「はい、今度一緒に話しましょうと」


そうか、龍之介の隣にいた子が例の夜久さんね。


「で、体調でも悪いんですか?」

颯斗君は心配してくれているらしく、顔色を伺ってくる。

あー…顔凄い整ってるな。…負けた。


「あ、ううん、ちょっと目の前にしたら緊張しちゃって」


ふふふっと笑って誤魔化してみる。

颯斗君は一瞬眉を顰めたけど、そのことに対して追求はしてこなかった。




「…宮地君とは知り合いですか?」

「はい?」

唐突な質問に声が裏返る。恥ずかしい。


「宮地君の態度が不思議だったので」

…この人は、意外と注意しなければならないかもしれない。


「そんな訳ないよ。初めてだよ。…っていうか私別のところから引っ越してきたし」

やっぱり颯斗君は眉を顰めたけれど、「そうですよね」と返してきた。


「それじゃあ、校内案内は放課後でいいんですか?」

「うん。颯斗君がいいのなら」


なんでも颯斗君はこの学校の副会長らしい。忙しそうなのに私に校内案内をしてくれると言ってくれた。

嬉しい限りだ。


「それじゃあ、放課後までに特別見たいところ探しておいてください」


そう言って、颯斗君は父兄に配るような校内パンフレットをくれた。















「すっごー…い、本本本、全部本」

「当たり前だと思うんですが…」


放課後になり、私は颯斗君に校内案内をしてもらっている。

あの紙で図書室がとっても広かったから来てみれば見渡す限り本本本!

前の学校はおもちゃとか置いてあったからな…。

(どうやらあれば図書委員が暇つぶしにもってきていたものらしい)


「いやー…凄いね…。次は?」

行きたいところを回った私は颯斗君に回る場所を聞いた。

「そうですね、職員室あたりでも行きますか」

そう言って、私の一歩先を歩く。

…凄く背が高いな。

私と30センチくらい差がありそうだわ。



そんなことを考えていたらどこかから派手な爆発音が聞こえてきた。


「な…っ」

「…またですか」

いつのまにか隣にいた颯斗君はため息をもらし、辺りを見回す。


「…宮地君」

「む?」

颯斗君は階段を下りてきた龍之介を見つけると、逃がすまいと声をかけ彼の元へ走った。


…おお、なんか、凄い。さっきの爆発音と関係あるのかしら。


「すいません彩さん、…多分、生徒会室の人が原因だと思うので」

「いや、でも青空俺は…」

「今日はオフなんですよね?」

「あ、ああ…」

まだあまり納得の言ってない龍之介の声が聞こえる。

「彼に案内お願いしたのであとは彼についていってください。…それじゃあ、また」


それじゃあ、という言葉を耳にし待ってと言おうと顔を上げたらすでに颯斗君の姿はなかった。


「…いっちゃった」


これは気まずい。どうしよう。あれ、二人で?


私は一度下げた頭をもう一度上げて相手の顔を窺う。

…ちょっと不機嫌っぽい。

「…えっと、ごめんなさい。私一人でも大丈夫なので…」

「いや、いい」


…どっちのいいだ?私になにを求めている。


「有紀彩」

「え?はい?」

「で、いいんだよな」

いつの間に。さっき颯斗君が言ったのかしら。

「ああ、はい。宮地君、だよね」

本当は知っているけど。


「どこまで見たんだ」

「え、あ、えっと…」

どうやらさっきのいいは案内するということだったらしい。

相変わらず分かりづらい。




それから、校内をある程度案内してもらい、購買で買った飲み物を片手に食堂で休憩をしている。


「ありがとう。…それにしても広いね、この学校」

前の学校とは大間違い、というと龍之介は笑みを浮かべてそうなのか、と返してくれた。


「…間違えてたら悪いんだが、」

会話が途切れた後、龍之介が歯切れ悪そうに切り出す。

「どうしたの?」

私は必死に冷静を取り繕う。


「…お前、前にこの近くに住んでたか?」

ああ、きっと彼は気付いてる。

多分、昼の辺りから気付いていたかもしれない。


「…龍之介」

「…え、」


目の前の彼は下を向いていた顔を上げて、目を見開いている。


「龍之介、でしょ?」

龍之介はまだ現状が読み込めていないらしく視線を泳がしている。

「リュー君って呼んだときもあったっけー…」

ふふふっと笑って、龍之介を見る。

やっぱり、彼はまだ目を見開いている。


「それじゃあ、…本当に彩、か?」

「そうよ。…何時辺りから気付いてた?」

そう問いかけてみれば、昼辺りから若干、と返ってくる。


「びっくりした。あそこで龍之介に会うなんて思ってなかったもの」

「…随分、変わったな」


龍之介は多少落ち着いたらしく、そう言ってきた。

「昔はもっと茶色っぽくて長かったのにな」

「そりゃ…、5年もあれば変わるわよ」


また、会話が途切れる。


「…離婚したんだってな」

「うん。…名字も変わったし龍之介に会ってもバレないと思ったんだけどなー」

そう言うと龍之介は少し眉を顰めた。

私はなんだか顔を会わせづらくなって下を向く。


「…お前は、俺に会いたくなかったのか?」


そんなはずない。

だって、この学園にきた半分の理由は龍之介に会いたかったからだもの。

この5年間、どれだけ会いたかったかなんて、知らないくせに。



「俺は、会いたかった」


龍之介の真っ直ぐな言葉に、私はどうしたらいいかわからない。


「彩…」

龍之介がそう呟いたのと同時にいくつか疎らな足音が聞こえた。


「ここにいたんだ!」

「彩さんも、いたんですね。案内してもらえましたか?」

後ろを振り返ると、夜久さんと颯斗君。その後ろには確か会長さんと、一年生の男子君。


「青空、頼まれたのならちゃんとやる」

「そうですね、宮地君、ありがとうございました」


それじゃあ、途中まで皆さんで帰りましょう、という颯斗君の声に私はうん、とだけ返す。


「いいなー………で、…」

「いや……」


私は一瞬、二人に目を向ける。

なんだか、ちゃんと見ることができない。











この5年間で変わったのは、外見だけじゃないのね。









私たちの先を行く彼の背中は













もう子供じゃないと言っているようだった


(俺は不知火一樹だ)
(あ、ぬいぬいずるいぞ!俺は天羽翼!趣味はー…)
(…不知火先輩と翼君ね)
(一樹)(翼)
(…一樹先輩と翼ね)
(それじゃあ僕は颯斗で)

(なんだか、急に現実を突きつけられた気がしたの)
(いつか、あなたのこともみんなの前で名前で呼べるかしら)

10/04/01

長くなってごめんなさい


*#
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あきゅろす。
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