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Spica
胸にあるざわつき


それは、一日というたった短い時間で学園中に知れ渡った。


「俺、彩と付き合い始めたんだ」

「む?」


俺がそれを知ったのは三時限目の前の休み時間だった。


「…もう一度言ってくれないか?」


廊下にいる東月は笑みを浮かべると、彩と付き合っているんだ、と言った。


彩と…?

一瞬、耳を塞ぎこんでしまいたくなった。
でも聞いてしまったことはリセット出来ないわけで。


「よかった、な」

「ああ、やっぱり宮地には教えておかなくちゃならないと思ってな」

「そうか」


俺がそう返すと、東月は「次の時間休めるか?」と聞いてきた。

俺は二つ返事で返し、近くにいたクラスメイトに次の時間休むことを伝え、廊下に出た。












「噂は聞いていた。本当だったのか」

それから屋上庭園に出て、座り込んだ俺は東月にそう言った。

東月はその顔から笑みを消し、やけに真剣な瞳でこちらを見てきた。


「な、んだ?」

「もう、彩のことは気に掛けなくていい」

「…何故だ?」

それは、俺に彩に近づくなと言っているのか?


「お前が彩の幼馴染で、彩が初恋の人で、大切に思っているやつを心配する気持ちはわかる」

「別に俺は…」

「ただ、これ以上彩や月子を混乱させるのはやめてくれ」

真っ直ぐと見てくる瞳を、俺はとらえられずにいる。

頭の中でぐるぐると何かが渦巻いていく。


「お前が今付き合っているのは月子だ。彩は俺が守る。騎士交代だ」


騎士交代


その言葉がやけに突き刺さる。

確かに、今の俺達にはピッタリの表現方法かもしれない。

昔から、俺は彩に守られてばかりいたから、俺が騎士だったかどうかなんて知らないが。


「でも、お前だって夜久の心配をするだろう?俺にだってそれくらいー…、っ」

「宮地、お前は今、誰に傾いている?」

「誰に…?」

掴まれた肩に、力が掛かる。

今にも音が出そうなくらい、強い力で。


「分かってないとかいうなよ?…だから、彩にもう構うな。俺だけで十分だ」



東月は、それだけいうと満足したのか口をつぐんだ。


なあ、東月。


俺が彩に持っている感情と、お前が夜久に持っている感情は別物なのか?

だとしたら、俺は、きっと…。




暫く澄んだ青空を眺めて、胸の奥にあるざわつきに気付かないふりをしていた。


さっきから何なんだ、この奥にあるざわつきは。

モヤモヤして、無性に何かに苛立って、ぐるぐるして、

自分が自分じゃないような錯覚に囚われる。


それにしても、アイツが、か…。











胸にあるざわつきに、本当はきっと、俺は気付いている

(別に、俺には関係ないはずなのに)
(好きだからといって、アイツと付き合えるはずはなかったというのに)


10/06/09


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あきゅろす。
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