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Spica
嫌いな言葉


私は、昔から自分勝手だった。



だからね、私決めたんだよ。





もう我侭なんて言わない、みんなに合わせるって…―――









「何かありますよね、先輩」

「だから何も無いって」


私はどうしてこんなところで可愛い可愛い後輩から問い質されているのだろうか。

梓は「何かありましたよね」の一点張り。

始めは約束をしてたのを忘れたのかと思ったけどどうやら違うらしい。


「先輩、今日は一段と目の下の隈が酷いですね」

「み、見ないでよ」

いきなり引き寄せられた顔に驚き、後ろに下がる。

男の癖になんでこんなきれいなの…っ!!


梓に指摘されたそれは、化粧をしても誤魔化せないところまできている。

うん、きっと直兄さんの呪いよ。そうに違いないわ。


「先輩寝てます?」

「寝てるよ、あ、そろそろ昼休み終わる」

「先輩、逃げないでくださいね?」


この学園で身長が低いとされている梓も、私から見たら十分大きい。

だからといって、龍之介や颯斗ほど身長差がある訳でもない。

だからここで壁に追いやられると逃げることが難しい。

…なんて悠長に言ってる場合ではない。


「梓くん?何のつもりかしらー?」

「いや?先輩が逃げそうだったんで」


逃げたくもなるさ!!


「先輩、何か誤魔化してませんか?」

その言葉に、私は思わず体を揺らす。

「それは梓じゃない?」

私は精一杯の笑みを作って梓に返す。


「酷いな先輩。せっかく僕が心配してあげているのに」

「ありがた迷惑って知ってる?」

「はい、勿論です」

にっこりと笑みを浮かべる梓に、次はどう返そうかと頭を捻る。


「先輩、今日は瞼が腫れてますね」

「…っ」

顎に手を添えられ、自然と梓と目が合う。

ジッと見てくる瞳に、目が離せなくなる。


ずっと見ていると、吸い込まれてしまいそうな気がする。

それでもやっぱり目線だけは逸らせなくて。


「先輩って何考えてるかわかりません」

梓はふう、と息を吐くと「夜久先輩はあんなにわかりやすいのになー」と言う。


「夜久さんは夜久さんよ。それに梓だってわかりずらいわ」


胸が、少し痛くなった。

親戚の人も友達もクラスメートもそう言ったわ。

必ず誰かと私を比較するの。

私は、もうあんなことしない。

夜久さんみたいに、自分勝手には動きたくない。

…そんなこと言っても、無理よね。

なんだか涙が出そうになってくる。


…なんで?



「先輩?」

梓の言葉で現実に引き寄せられる。


「ごめん、なんでもないの」

私がそう言うと梓はその顔を少し歪ませ、「そうですか」と言って離れた。



「あ…、チャイム…」


校内に鳴り響くチャイムで、廊下にいた生徒は一斉に駆け出す。



梓は去り際に、









「先輩って可愛くないですね」










そう言っていった。











そんなの、私が一番知ってるわよ。










もうずっと遠くにある梓に声を掛けることも出来ず、












私はただ、握った手のひらに力を込めることしか出来なかった。













それは、私が一番嫌いな言葉だった

(梓はそうやって、何でも気付くくせに)
(私に手を差し伸べてはくれないのね)

(それとも、私がその手を取っていないだけ?)




*#
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