Spica
最悪な朝
「ど、して…」
ついていかない頭を捻りながら、私は二人を交互に見つめる。
寄りによって、どうしてこの二人?
多分、直兄さんは安否の確認とかしに来たんだろうけど。
でも、どうして龍之介がいるの?
今日、夜久さんと約束があるんでしょ?
夜久さん「明後日は一緒に食べるんだ」って、凄い楽しみにしてたよ?
不意に、「あー腹減ったー」という直兄さんの声が入ってきた。
…何か悔しい。どうしてこんな言葉ばかり耳に入るんだ。
そのまま立っていると、後ろから「彩」と呼ばれた。
後ろを振り返ると、さっきまでこの人にメールを送ろうなんて考えていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
直兄さんも龍之介もいつの間に部屋に入ったのか、直兄さんは笑って部屋のものいじってるし、龍之介はちゃっかりソファに座っている。
取り敢えず、こんなところでボーっとしている訳にもいかず、開いていたドアを閉め、二人の側による。
「で、何の御用で?」
「ああ、腹減ったから、飯」
…そうですよねー、そうだよねー。直兄さんだもんね。
そうだよ、直兄さんがそんな高度な技出来る訳ないじゃない。いつも直球勝負なんだから。
直兄さんは小さい子供が自分を主張するかのようにその場で胸を張った。
いや、言ってきたとかそういう問題じゃなくてサボること自体が問題なんだって(人のこと言えないけど)。
ついでに直兄さんは「俺、6はあるけど先生に言って頼んできた」と言った。
どこまで用意周到なのかしら。本当に。
「まあ、いいや…」
なんだか真面目に考えるのもこの人前にすると面倒になるから適当に返事を返してやめた。
「はい、どうぞ」
狭い机に三人分の料理を並べて席につく。
「雨、止んだみたいだな」
そういえば、さっきは料理をしてて気付かなかったけど、雨の音が聞こえない。
少し開いたカーテンの隙間から外を覗くと、青色が所々見え始めている。
「止んだんだ…」
心のどこかが、フッと緩んだ気がした。
「天気良し、料理良し、それじゃ、いただきまーす」
急に何を言い出すかと思ったら…。
呆れて直兄さんから視線を外すと今度は龍之介と視線がぶつかる。
なんだか急におかしくなって、私も龍之介も笑い出す。
「な、なんだよ!」
「なんでもないよ」
子供みたいにツンと拗ねる直兄さんに卵焼きを一個あげる。
「あ、サンキュ。っていうかさ、このメンバー初めてだよな!」
そりゃ、あなた様は教員ですもの。
「そうですね」
直兄さんは昼食を取りながら「俺も生徒だったらなー」だとか言っている。
龍之介も龍之介でいちいち律儀に相槌を打っている。
うーん、見てて飽きない。
それから私達は他愛ない会話をしながら昼食を取り、
悪いこととは思いつつ、一緒にこっそりと外に出掛けた。
帰ってきて颯斗や先生達に怒られたのは、また別のお話。
最悪な朝は穏やかな午後へと変わっていく
(二人と別れた頃には、もう頭の雑音なんて聞こえなかった)
(もしかして、二人がいてくれたから?)
(あーあ、怒られた)
(青空が怖かった…)(そうか?彩よりは…)
(まあ、お前は曖昧な気持ちで動くな)
(…?)
10/05/04
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