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Spica
弱い私の



昔から私は、有紀さん家の良いお姉ちゃん、と呼ばれていた。



誰も名前で呼んではくれない。



そう呼ばれるなら、って、一生懸命、いい子にしてた。



でもそれが、いけなかったのかもね…。














「…なんで、いるの」

シャッという音とともに入ってきたのはもう見慣れた彼の姿だった。


「…青空から、保健室に居ると聞いた」

そっか、うん、そうだろうね。でもどうして?


「…ノートなら颯斗に借りれば良かったのに」

「いや、違う」

ノートじゃないの?じゃあなんなの?


「…心配しただけだ。朝、顔色が悪かったからな」


龍之介がそう言うと、保健室内は静寂に包まれる。


「授業は?」

「休む」


いいのかしら。個人的にはもう行ってほしいんだけど。

いつまた泣き出すかわからないから。


「…何か、嫌なことでもあったのか?」

龍之介のつなぐ言葉に肩を揺らす。

「なんで?」

「…涙の後が残ってる」


スッと伸ばされた手を思わず叩き落す。


「ご、ごめ…」

「いや、俺が悪かった」


龍之介は伸ばした手を引いて、視線を泳がせる。

何を見て何を思ったかはわからないけど、龍之介は一瞬顔を歪ませた。



「…そのハンカチお前のか?」

「え?いや…」

陽日先生のだよ、というと龍之介は握っていたそれを抜き取った。


「あ…」

「俺には、言えないか?」

視線をハンカチから顔に上げると、私は頭が真っ白になる。


昔から、龍之介のこういう顔を見るとなにも言えなくなるんだ。


「…また、お前は何か溜め込んでいるんだろう」


やっぱり私は龍之介の顔を見ることが出来なくて俯く。


「お前は何かあると一人で泣くだろ?…変わらないな」


不意に頭に感じた重みに、私はどうしたらいいかわからなくなる。

言いたいことはたくさんあるのに上手く言葉が出てこない。



「覚えてるか?…4年の頃、お前が家を飛び出して…」

「…なんで覚えてるの…?」

覚えてる。

あれは小学4年の頃。

なんだか自分が分からなくなって、全部が嫌になって、無我夢中で家を飛び出して走った。

泣いてたら、龍之介がいたんだっけ。



「…たまには、俺にも頼ってくれないか?」

「…頼れないよ」


駄目だよ、だって、龍之介は、夜久さんの彼氏でしょ?


「頼れ。…それともやっぱり、頼りないのか?」

「違うよ…。でも、わた、」


手を引かれて体制が崩れる。


「なあ、…せめて、俺の前だけでは気を許せ」


「龍之介、」


なんで?どうして、そんなこと言うの?


そんなこといわれたら私―――…



「おい有紀ー」

急にドアの開く音がして、私は思い切り龍之介の胸を押す。


「…大丈夫か?」

「はい」

「そしたら昼頃に戻ってくるから居てくれ」

「はーい…」


星月先生はそれを確認したのか、数秒後にはドアが閉まる音がした。


「お前」

「…っ取り合えずもう戻って、私寝たいの」

掛け布団を取って頭まで被る。


「待て、話はまだ終わって…」

「煩い!…お願いだから、」










もう、頼ってばかりじゃいられないの。



これ以上言われたら、きっと私は本当におかしくなる。










でも、もし、貴方が許してくれるなら、











貴方なら私のこと、受け止めてくれるのかしら…。
























それは弱い私の本当の叫びでした


(どうしてか、貴方の前だと「強い私」じゃいられないの)
(ねぇ、教えてよ)


10/04/21

若干続いてた(



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あきゅろす。
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