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実は(BLEACH:一護)




驚いたことに、気付けば自分は旅禍に加担する罪人。仲間であるはずの死神に追われながら女は考えていた。そしてそれでも構わない、という女の目に迷いはなかった。

養女として育ててくれてた祖父である山本元柳斎重国の顔が、
尊敬していた七番隊の二人の顔が、
何度も何度も頭の中で甦るが今はそんなことを考えている余裕はなかった。

気付けば席官たちに追われている自分は必死に逃げないとゴールなど見えなくなる。
柔らかく綺麗な茶髪と、信じられないくらい珍しい橙色の瞳をもった女死神は手加減をしながら死神達の間をすり抜ける。
状況をよむことは不可能だった。

本当に驚くほど不思議なくらいに展開は速かった。

市丸ギンが何か不審だと思い、調べていたら唐突に藍染隊長が殺されたのだ。何者かに、そしてその犯人が私ということになった。ただの二十席が隊長を殺せるわけないでしょう!と反論したかったのだが藍染隊長の胸に突きつけられていたのは確かに自分の無くしたと思っていた斬魂刀だったので文句も異論も唱えることはできなかった。集まってきたなかの副隊長陣の中に自隊の副隊長である射場さんが居て凄く戸惑ったものだ。が、弁明する前に逆上した雛森副隊長に斬られかけ、逃げてみたらこの有様。ちなみについさっき全隊にこういう命令が出されたところだ。

『七番隊第二十席、山本を見つけたら、ただちに殺せ。これは中央の厳命である』

あれは自分を養女にと引き取ってくれた、お爺さまの声だった。
正直上からの命令である以上に養女の私が掟に反したことに厳命を下すつもりだったのだろう。だから裁判などもなしに殺せの命令だ。
溜息をつきたくなり、その前にゴシゴシと目尻にたまった涙をこする。泣いていてはいけない。戦わなければ。
そう思って刀を向ける相手は決して死神たちではなかった。自分をこんな目にあわせる、卑劣な敵。

「待ってろ……市丸ギン!」

叫んだ私は、走っていたら何時の間にか使えるようになった瞬歩で姿を消す。
追ってくる霊圧を振り払って、ただひたすらに市丸ギンを探した。
考えたくないが中央の命令があんなに迅速に出た、ということ恐らく中央に市丸ギンの手がまわっているのだろう。でなければ……殺 さ れ て い る の か。




橙色の目が闇を映す。こんな結末、誰が予想した。
市丸ギンこそ全ての黒幕だと予想をつけたはいいが、それは外れていた。市丸ギンだけではなかったのだ、敵は。
既に私に殺されたこととなっているはずの藍染隊長。そして平和を誰よりも好むと噂される自隊の隊長、狛村と仲が良かった東仙隊長。
有り得ないと目を見開いたすきに心臓を貫かれた私はその後、直ぐに治療を受けて軋む体にムチを打った。

ぼとぼと大量に流れ落ちる出血に四番隊の隊長と副隊長は驚いていたが、それでも止まることは出来なかった。


だって。


視界がどんどんどんどん暗く染まっていく。
力が抜ける、苦しい、悲しい。
涙がどんどんどんどんどんどんどん流れていく。
ああ、ああ。これで終わりか。でも良かった。“また”守れた。

「な、なんでだよ…!なんでアンタ、俺を庇った!なんでッ!」

殺されかけた一護が、その一護を庇って死にかけてる私を前に悲鳴をあげるように叫んだ。
変わっちゃいない、誰かが自分の為に傷つくのを恐れる優しい子だった。あんたは昔から。ごめんね、ほんとうに。またアンタを遺すことになっちゃうのね。
飛び上がりたいくらい嬉しいのだけど、もう笑うことすらできない。ごめんね。

「た、たわけ一護!!貴様、分からぬのか!!貴様は忘れたわけではないだろう!!言っていただろう、貴様の姉は死んだと!!橙の瞳を見て、何故気付かぬ!!そやつは、お前の、姉だというのに!!!」

朽木隊長の頭をしっかりと抱きしめたルキアが泣くように叫ぶ。
ルキアから聞いた言葉に面食らった一護は弾けるように私を見上げた。ああ、ごめんね。名乗ってあげたかった。でも名乗ることができなかったの。あんたを遺してのうのうと死んでしまった私はどうやってアンタに名乗ればいいか分からなかったの。だからせめて守ろうと思ったのよ。結果的にいえば守れたのはあんたの命だけで、あんたの心は守れなかったみたいね。ごめん、ごめん。だから、……泣かないで、一護。

事実を知らなかったお爺さまが私を見つめていた。「信じてやれなかった!」そう言って涙いっぱいに私に駆け寄ろうとした射場副隊長を狛村隊長が止めてるのが見えた。そして私は情けないことに、もう涙も出ないし笑えない。ああ、ああ。視界が黒く染まってく。どうしよう、なにを言おう。大きく育ってくれていた、ようやく再会できた愛しい弟に、あたしはなにを。







死に別れて、もう逢えないと思っていた弟に一目でも会えた。そしてアンタは今、私の為に涙を流してくれてる。私はアンタを守れて死ねる。こんなに嬉しいことはない。そういう意味をこめて一護に呟いた。もう大きくなっているというのに何一つ変わらない泣き顔を晒すバカで可愛い弟に、私の声は届いただろうか。一護、愛してる。世界で一ばん、あなたのことをあいしてるの。だからねいちごさよならをしなきゃわたしはもうしんでしまうか――い――ちご―――-………






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END


企画サイト様「咆哮」に、提出。

ヒロインは一護の姉で、真咲と一緒に死んでしまっていた設定です。魂がソウルソサエティに流れつき、山本に養女として拾われた彼女は死神となり七番隊に配属されました。面倒を避けて二十席になってからは昇進試験を受けなかった時に友人であるルキアの処刑を聞いて面会を申し出たところルキアに一護の話を聞かされる……驚きの裏話。というか短編夢に収めるべきじゃないんですけど連載にはできそうにもないので。素敵な夢企画に参加させていただき有難うございました。死ネタで申し訳有りません!







あきゅろす。
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