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寒い日(銀魂:銀時)



お登勢の経営するスナックの上にある二階では、坂田銀時が営んでいる万事屋があった。仕事内容は配達、屋根の修理、子守り……要するに何でも屋。
そんな普通とはボール一個分くらい掛け離れた職場で働いているのは店主(?)である坂田銀時と住み込みの神楽。そして色々あって働くことになっていた志村兄妹。
そして今日は冬の冷え込みも半端ない、ということで志村兄妹は泊りということになった。
中では温かな、家庭的な会話が珍しく花を咲かせていた。


「神楽ちゃん、お醤油とってくれる?」
「ほいよ。ダメガネ」
「ダッ…!!メガネのどこが、」
「まあまあ、兄(にい)。落ち着いてよ、今日くらい。……銀さん、豆腐ってそろそろいいんでしたっけ?」
「あー……もうちょっと、や、まあいいだろ。こんくらいが一番上手い!多分」
「はっきり多分って言われても…まあいいや」


コタツは机が四角である為、大抵四人が入れるようになっている。
その中の一つを定春が占領し、もう一つは銀時と新八が占領していた。残った一つは神楽と新八を「兄(にい)」と呼ぶ新八の妹。
いつもの万事屋メンバーですっかり馴染みの笑いを交えた会話をしながらモグモグとご飯を口に入れる。

最近はまとまったお金が入らなくて、野菜と豚肉と鶏肉を入り交えたオンパレードだけど、それでも熱い鍋料理はとても美味しくて四人(+一匹)の顔を綻ばせる。


「で、豆腐どうだ?」
「ああ。お、いひいですよ…とっひぇも」
「あれ?そんなに豆腐熱い?」
「じゃあお前が食べてみろアル」
「へ?ぎゃぶっ、ぐ、あつつっ!!」


口の中でほくほく豆腐を転ばせた私がそういえば、神楽ちゃんが首を傾げた兄に無理やり豆腐を放り込む。

(……そういや、さっき神楽ちゃん私よりも先に豆腐に手伸ばして口の中痛そうにしてたけど…火傷だったんだ、あれって)

嫌がる兄と意地悪気に悪戯する神楽ちゃんの楽しそうな顔を見て、私は白菜を口に入れた。
白菜の白いところは生だと固いんだけど、やっぱり鍋にしたら柔らかくなってとても美味しい。
白菜の味が口いっぱいに広がって、つい頬を緩めた。


「おーい、幸せそうに食ってんなァ…銀さんにも何かよそってくれー」
「ぷっ。なんです、その酔っ払い風口調……えと何がいいですか」
「なんでもいいぞー、肉なら大歓迎」
「はいはい」


二度返事をしてオタマを手に豚肉と糸コンニャクを手渡されたお皿に入れる。
ていうか銀さんは隣なんだから直ぐに手が届くだろうに、と文句こそ最初は言っていたけど…もう慣れた。
まるでダメな男(略してマダオ)にそんなことを期待してはいけないのだ。

それに何より、こうやってお鍋を銀さんによそっていると死んでしまった父によそってあげているみたいで嬉しくなる。(本人にそれを言ったら数日は拗ねたけど)

まだケンカしているらしい神楽ちゃんや兄にもよそってあげて、ケンカを中断させた私は自分のお皿が空っぽなのに気付いてお腹に手を当てる。
うん、結構食べた。美味しかった。やっぱり鍋っていいな。今度、姉(ねえ)とも一緒に食べよう。

今まで姉(ねえ)と兄(にい)と私だけで食べてきた食卓。
でも姉(ねえ)はキャバクラで忙しく、私と兄だけでの晩御飯も珍しくなかったのだ。
だけど、今は違う。

神楽ちゃんも、銀さんも、兄も、私も居る。
それがとても楽しくて、手をコタツの敷布団に置いた、ら。


ら。


「……銀さん…」
「んー?」


いつのまにか隣に居た銀さんも鍋を食べ終えていて、私の置いた手に手を重ねた。
ほくほくと鍋をかっ込んでいる神楽ちゃんと兄は気付いていない。銀さんと私の重なった手にも、私たちの関係にも。
第一気付いたら姉(ねえ)が殴りこんできそうだけど。


「……とんだタヌキですね」
「なんとでもいえ、コノヤロー」


温かいコタツの中、私だけ体温が上昇するのを感じて息をついた。
こうなれば銀さんは離れないのを知っている。
本当に、どこか子供な人だなあと思って、それでも嬉しくて私はふと銀さんの横顔を見ようと目をやった。


そうしたら。


「銀さん」
「……なに」
「いえ、なんでも」


くす。と笑った私に、銀さんはコタツに突っ伏した。
私だけ体温が上昇したというのは訂正します、ごめんなさい。


それと、
真っ赤な顔でコタツに突っ伏して、直ぐに顔を隠した銀さんはタヌキなんかじゃありませんでした。






()





END



企画サイト様「larme」に、提出。

万事屋トリオが大好きです。
冬とかコタツ囲んでたら凄くいいですよね。…和みません?





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