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心と名前(ONE PIECE:キッド)



世界は白と黒で満ちてる。
幼いあたしが手に入れることのできた一つの事実。
今日、あたしは売られるんだ。

目の前にいる男の人に名前を聞かれた。
名前、なまえ、ナマエ、名、前?









「ちっ…しゃあねェな。」

舌打ちした男の人は直ぐに踵を返した。
カリカリと持っていた白い紙になにか書いてるのが見える。なんだろう。
男の人は紙を見ながら電伝虫を使って誰かに何か話してた。
暴れてもムダだってことは随分前に分かった。だから手錠はない。
手錠はないけど、とても硬い首輪がついてた。


「電伝虫さん」
「………」
「あの人、なに言ってたの?」


虫である電伝虫は話すことというのは能力を使ってるときだけだと思ってる人が多い。
だけどあたしは知ってる。電伝虫だって話せるんだ。
そう思って前のごしゅじんさまのところで奴隷してた時だってあたしは電伝虫さんと話すことが多かった。
電伝虫さんは色々知ってる。ごしゅじんさまの愛人とか、結婚相手とか裏話とか麻薬、?についても知ってた。


「ナマエ、テキトウ、オンナ、キメル」
「オンナ?あたしのことか、な…?」

ガチャリと音がして目を閉じた電伝虫さんは眠ってた。
それいじょう話すことができなくなってあたしは仰向けに寝転がる。
ご飯を数日食べていないで、おまけに殴られ続けたあたしの体から少しずつ血が流れてる。

くらくらする頭。
お腹がすいて目眩。
力が体中から抜ける。
キモチワルイ。
吐き、たい。

そう思って、その欲求を満たそうと吐くように顔を床に近づけて大口を開けたのに、何も出てこなかった。涎すら。

うええ、うえええと声だけが出る。
髪を切ってないからボサボサの長い髪が床について、栄養失調でぷっくりと出たお腹が楽な姿勢にしてくれない。
目眩が酷くて何も考えられなくなって、あたしは目を閉じた。

起きたらきっと母さんが居る。美味しい味噌汁とお魚と嫌いなお野菜を用意した母さんが笑ってる。
新聞を読んでブツブツ海賊に文句いってる父さんだって居る。
だから、眠れば、きっと、大丈夫。


「no,12と13を出せ」
「おう。はやく出……おいガキ!起きろ!てめーの番だ!」


ガシッとお腹を蹴られて、痛みで眼を明けたあたしの首根っこを変な服着た男の人が掴んで放り投げる。
オリから出されたあたしは次にするべきことを分かってる。
まだ小さいあたしが売られてここに来るのは二回目だった。だってあたし7才で人に売られだしたんだ。

ぱんぱんと服を叩いて、男の人のついてく。

隣のおじさんは悲鳴や罵声をあげてたけど、注射されたら大人しくなった。
抵抗なんて、ムダなのに。


「はい!お次はまだまだ若いオンナノコ!エントリーナンバー13番、パーティだよう!年齢にして13才!労働力には使えませんが観賞用には充分!労働させて苦しむ姿をみて興奮するなんて高貴なご趣味にもピッタリ!さぁ特別価格49万ベリーから!」


パーティ?
誰だろ、と思って納得した。電伝虫が言ってた、あたしのことだ。
多分適当につけたにちがいない名前にあたしはぼーっと会場を見上げる。

白黒白黒の沢山の顔。
あたしを買おうとしてる一人が手をあげて「51万」と叫んだ。
二、三人が手をあげてく。

男の人が、そろそろか。と笑ったときにあたしの顔は歪んだ。

眩しかった。
あたしから流れ出る血の色も黒なのに、その人だけが赤だった。
赤、赤、赤。

驚いてその人を見てると、その人は妙な顔をした。
あたしに気付いたかのような顔。

男の人が何かを考えるような素振りをして、声を張り上げるわけでもなく、

「60万」

そう言った。

人間の平均価格は50万ベリー。
そこから差は出るものの大抵が70万程度で売られてく。
あたしはそれよりもずっと値段が低かった。
でも不思議じゃなかった。だって小さくて労働に使えないあたしだもの。

時間も頃合だったのか男の人が「ではではお買い上げ!」と声を張り上げた時に、赤の人を見つめた。

赤の人の目はぎらぎらとあたしの方を向いてたけど、隣にいる人たちに声をかけられて直ぐにそちらを向いた。
あたしは俯いて、連れてかれた。


「よう、パーティ」
「ごしゅじんさま」

時間がそれから一時間経って、小奇麗にされたあたしは首下についた首輪をそのままにして引き渡された。
壁に持たれかかった赤の人があたしに向かって手を伸ばす。
どうしてあたしを買ったんだろう?あそこには綺麗な女の人たちだって居たのに。
でもそれを聞けるわけもないあたしは深く頭を下げた。

「ではお代金を…」
「ああ。金ァある」
「それでは早速、」
「が、悪ィな」

ざぐり、と黒色が舞った。
あたしから流れてたのと同じ黒色だったから分かる。
人体から出る黒は、大抵、血。

前のごしゅじんさまも結構気分で人を殺したり、殴ったりするタイプだった。
驚くこともないあたしは黙ってごしゅじんさまを見上げた。
殺されるんだろうか。
ヤだな。まだ生きたいな。生きてどうにかなるわけじゃないけど。
い き た い な 。

「おれの気まぐれだったんだ。気まぐれに金を払うのもバカらしい」
「………」
「とっととどこにでも行け」

コートが翻って、あたしから離れてく。
死体となった男の人から手渡されてたんだろう、鍵がちゃりんと落ちた。
興味無さそうに目もくれずに歩いてく赤の人の背中をあたしは見つめた。

力の抜けた足をパンパン叩いて、立ち上がる。鍵も拾って。

震える足で赤の人を追いかけた。

「…なんだ、目障りだ、どっか行け。死にたくなけりゃな」
「なんでも、します。なんでも、します」
「いらねぇ」
「だって、行くとこ、ない」

行くところもない、帰るところもない。
だからあたし、縋れない。
殴られたって殺されたっていい。
あたしは行くところなんてないよ。


「パーティ」
「ちがう。あたし、名前なんて、ない」
「そうか」


黙って見上げてたあたしの顔がそんなに酷かったのか、「勝手にしろ…   …」とごしゅじんさまは一言呟いた。
聞えてきたのは、あきらかに女の子の名前。
でもキョロキョロ見渡しても女の子なんてどこにも居ない。
意味を考えて巡って巡って、行き着いた答えが「あたしの名前」ってことだった。外れてないかな。
当たってたら……うれ、しい、な。
また黙って歩き出すごしゅじんさまの姿を見失わないようにあたしは慌てて歩き出す。


(…えへへ)

忘れてしまった最初の名前も、無くした名前もどうだっていい。
あたしの名前。
あたしの名前なんだ。


忘れないようにあたしが貰った名前をポツリポツリ呟いていたら、ごしゅじんさまの足が止まった。
ごしゅじんさまの隣で見上げた大きな船には沢山の肌色と髪の毛の色がいっぱいだった。
ああ、黒と白なんてなんて世界には少ないのだろう。






()




「こんな小娘をどうするつもりだ」
「暇つぶしだ」
「あ…電伝虫さんが居る、こんにちわ」
「コンニチワ」
「「………」」
「今日からよろしくね」
「ヨロシク。ココ、キッドカイゾクダン」
「……キッド、こいつは……?電伝虫と会話をしてるぞ」
「……俺も知らねェよ。が、意外と使える仲間になるんじゃねェか…?」


END




どうやらキッド海賊団では重宝される情報屋となりそうなヒロインがお送りしました。




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