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その一言が(ONE PIECE:ルーキー)




私の家にはお母さんが居ません。どうやら私が生まれた直ぐ後に死んでしまったようです。
でも私は寂しくなんてありません。
だって、うちには信じられないくらい無敵でうるさい(こんなことを言ってたことが知られると、お仕置きされちゃう)お父さんとお兄ちゃん達とお姉ちゃんが居るから。

午前六時、携帯のアラームと目覚まし時計が一斉に鳴り始めて私はベッドの中で身動ぎする。
起きなきゃ、と分かってるけど動きたくない。まだ寝たい。……よし、寝よう。私を安らぎの世界へ!と考えてジリジリ五月蝿い目覚ましをそのままに私は体を丸めた。
大体今日は日曜日だし、早起きする必要なんてないんだ。思いなおした寝る理由がとてもいいものだったので私は力を抜いてそのまま温かい布団で眠れるはずだった。


な の に。


「おい、起きろ」

女の一人部屋だというのに意に介さずドアを開けてズカズカと入ってきた侵入者が約一名。
誰だかは言うまでもなく分かってるけど起きたくない私は侵入者であるお兄ちゃんの顔を見ようとせずに布団の中に顔も足も手もすっぽりと入れて隠す。まるで亀のように。
むふふ!どうだ、私の開発した絶対防御法は!これなら起こせない、だ、ろ、う……あれ、なんか浮いてる?あれ?

「うぎゃあっ」

妙な浮遊感を感じたと思ったら、ドタンッと床に落とされた痛みで声があがる。慌てて布団から這い出たら、そこはやっぱり床の上。
つまり布団ごと持ち上げられた私はそのまま落とされたと、フローリングの床に。……しかも絶妙にお尻の骨が当たった。
痛みとか、恥ずかしさとかで侵入者を涙目で睨む私に、侵入者こと次男のお兄ちゃんはニヤリと笑う。

「起きねェからだ」
「〜〜〜!言うにことかいてソレか!今日は日曜なんだからいいじゃん!」
「うるせェ。とっとと起きて俺の為に酒買ってこい」
「私未成年の中学生!ていうかお兄ちゃんも高校生じゃん!」

シャーッ!と蛇が威嚇するかのように私が反抗するのは次男のローお兄ちゃんだ。
医者を目指しているだけあって凄く頭がいいし、料理も美味いし(でも魚とか捌くのだけしかやらない)んだけど…問題は性格なんだよね。お酒好きで、見てのとおり傍若無人。
前に友達に紹介してってせがまれた時に会わせてみたら「趣味は妹を可愛がること」なんて自己紹介してくれてそれから嫉妬を私に向けてきた友達とは絶縁状態。
可愛がる?は!冗 談じ ゃ な い!あんたがやってんのはセクハラと妹いじめだ!って突っ込みたかった。

「ま、はやく起きろ。親父が居ねェんだ」
「え?父さん、どこ行ったの?」
「道路」
「今日も工事なんだ、大変だね」

平凡な私と目の前に居るローお兄ちゃんを生んだ父さんはフリーターだ。でもニートに近いとかそういうのじゃない。やりたいことがないから適当に働いているみたいな感じ。
ボクサーだってやるし、レスリングだってやるし、道路工事現場で働いたり。とにかく力仕事をこよなく愛しているフリーター。
他愛稀なる筋肉は誰からも受けがいいようで仕事は引っ切り無しにある。そう、父さんには土日なんて言葉は無縁なのだ。
そんな変わりものの父さんの名前はウルージ。優しくて、前には寺の修行僧をしていたらしい自慢のお父さんだ。

トントンと階段を降りて、二階にある洗面台に向かった私は洗面台で顔を洗う。
水で洗うとちょっと冷たくてヤなので温かめのお湯を出す。洗顔フォームを手にしてパシャパシャやってると、お湯が急に水へと変わった。
驚いて身を竦める。

「……もしかしてドレーク兄ちゃん?」
「ああ。お湯で顔を洗うな、水の方が目を覚ますぞ」
「うーん。水って冷たくてヤなのに」

でも私はそのまま水で洗った。
これがロー兄ちゃんであるわけがない。ロー兄ちゃんは率先して水を嫌がりお湯で顔を洗うタイプだもの。
第一、私が長男のドレーク兄ちゃんに反抗しないのには理由がある。好きだからだ。

ドレーク兄ちゃんは我が家で唯一二十歳を超えてる大人のお兄ちゃんであり、性格はロー兄ちゃんや私とは全然似てない。
真面目で勤勉で優しくて、いつもケンカが起きれば仲裁をしてる。お兄ちゃんのセクハラ被害からも守ってくれてる。
そんな性格からかお兄ちゃんは警察官。
それも若くして立派な地位についてる、妹の目ながらも凄い人だった。

「お兄ちゃんは仕事行かないの?」
「いや、今日も直ぐに出る。バカを待ってるんだ」
「あー……」
「誰がバカだってんだよ!うるせーバカ!」
「うるさいのはお前だ」

いつもより遅い時間なのにまだ家に居るドレーク兄ちゃんに私が顔を拭きながら聞けば、予想通りというか何というか…原因は長女のボニー姉ちゃんだった。
大学にスベって(でも受けたのは弁護士の超有名大学)予備校に通いながらバイトしているボニー姉ちゃんはドレーク兄ちゃんと同じくらい私が好きな姉ちゃん。
でも二人の仲はちょっと険悪。ドレーク兄ちゃんは清楚な女の子が好きなのでギャル系で口の悪い姉ちゃんとは性格があわないみたい。
でもってボニー姉ちゃんもドレーク兄ちゃんの堅物なとことかが嫌いみたい。大学落ちてるからかバカってはっきり言うドレーク兄ちゃんにも原因はあると思うけど。

「ったく、いちいち細けェなー…おはよ、さっきお前なんか叫んでなかったか?」
「うん。ロー兄ちゃんに布団ごと落とされた」
「またアイツか…」
「ははっ」
「笑いごとじゃないよ、姉ちゃん…」

溜息をつく私とドレーク兄ちゃんに対して笑いとばすボニー姉ちゃん。
気風のいい姉御肌な姉ちゃんは何に対しても物怖じしない。唯一嫌いなものがドレーク兄ちゃんみたいな人間の居る警察官らしい。

「一発金玉に蹴りでもいれてやりゃいいんだ、あたしはそうしてたぞ」
「ぶっ、げほっげほっ!!」

いきなり信じられない言葉を出してきたボニー姉ちゃんに私は咳き込んだ。直ぐにドレーク兄ちゃんが私の背を擦ってくれて、ボニー姉ちゃんを睨む。
ああ…きっとボニー姉ちゃんの被害者だったんだろうなァ、年齢から言っても…。
過去に笑うボニー姉ちゃんと悶絶するドレーク兄ちゃんを見たことのある私はしみじみと思ってドレーク兄ちゃんから離れた。

「…にしても蹴り、か………や、無理無理。考えらんない」

やってみようかな、と思ったけど考え直した。あのロー兄ちゃんにそんなことしたら最後、じゃなくて最期だ。
散々セクハラされて虐められて、本当にヒィヒィとか喘ぎ声しか出ないくらいにまでに虐め倒されてしまうのは想像に難くない。兄ちゃん、ドSだもん。
背中の上に笑う兄ちゃんに馬乗りされて、手を魚みたいにピクピクさせるリアルな想像をしてしまって私は青褪めた。

「酒は無理でも何か上納しなきゃ……本当に殺される!」

ロー兄ちゃんの部屋を凝視した私は青褪めたまま財布を手にして家を飛び出した。
ふざけんな、散々弄られてんのにこれ以上弄られてたまるか!
あれ、普通の兄妹ってこんなものだったけ?あれ、なんだか涙出てきたや。なんでだろ?

というわけで近くのコンビニまで走ってきて……足を止めた。直ぐに回れ右。
コンビニの前で行儀悪くたむろしてる不良達が居たからじゃない。
その中に一際行儀悪く、目立つ赤い髪の、めちゃめちゃ怖い不良が居たからだ。

気付くな!気付くな!と祈って、こそこそ帰ろうとしてたらドンッと人にぶつかった。

「ごめんなさい!」と、慌てて頭を下げて謝る私に目の前のぶつかった人は「おー…痛ってえっ!!あ〜〜俺、折れちまったかも〜?」なんて言ってきた。
ええ、嘘!何でこんな柄悪い頭の悪い人にぶつかるんだ私!
ボサボサの髪とか臭い匂いで私に近付いてくる人にヒイッと身を縮こまらせた私は後ずさる。

「ねェ、俺の治療代出してく…ベボッ!」
「何してる」
「え?あ、キラーさん!」

詰め寄ってきた男の人が一瞬で長い足に蹴り倒されたので驚いて後ろを振り返れば意外や意外、助けてくれたのはキラーさんだった。
……でも、お兄ちゃんの友達なんだよね。キラーさんって。つまり、だから、ということは。

「てめぇ、俺の妹に何してくれてやがるんだゴラァアアッ!」
「ごごめんなさっ、たたすけっ」

後ろで地面まで揺るがすような低い声で脅す赤い髪の人(=私の兄ちゃん)が居ないわけない。
恐らく私に伸ばしたであろう手をピシャリとキラーさんが叩いて私の手をひいてコンビニ前まで誘導してくれた。
くそう、だからお兄ちゃんに見つかるのは嫌だったんだ。でも助かったんだけど。

後ろから聞えてくるタコ殴りにしてるであろう音はこの際黙認した。


「ええと…ありがとう?キッド兄ちゃんもキラーさんも」
「ったく、あんなバカに引っかかってンじゃねェ!」
「ちがいない」

お分かりだろうと思うけど、頬にとんだ赤い血飛沫をそのままにしてるキッド兄ちゃんは正真正銘私の兄で、我が家の三男。
ロー兄ちゃんより一個年下のキッド兄ちゃんは反抗期真っ盛りなので最近家に全然帰ってこない。いわゆる不良というヤツで頭がいい兄ちゃん姉ちゃんとは違い、頭が切れるタイプだ。
そんなことから暴力団的なものを率いてて自慢とは言いにくい。でもまあこうやって私を助けてくれるあたり隠れ優しい兄ちゃんである。

「えーと、じゃあ私はこれで……」
「待て。なに買いにきたんだ」
「え?ああロー兄ちゃんがお酒買ってこいって…」

そう言った私にキッド兄ちゃんはニヤリと笑う。
「ほらよ」と差し出される開けてない缶ビールに私は目を輝かせた。未成年ではとても変えない代物なのでキッド兄ちゃんの善意が嬉しすぎる!これで虐められない!
「有難う!」と私はキッド兄ちゃんに言って立ち上がって、受け取った缶ビールを手に家へと急いだ。

「―――いいのか、あれは」
「あのバカが泡塗れになる姿を想像しただけで笑えるぜ」

そんな会話が二人の間で交わされているとも知らずに家に帰った私はロー兄ちゃんの部屋へと急いだ。
コンコンとドアノックして出てきたロー兄ちゃんに缶ビールを差し出す。
それをみてロー兄ちゃんは驚いた顔をした(自分で頼んだくせに!)

「どうしたんだよ、これ。盗ってきたのか?やるな」
「やるな、じゃない!貰ったの」
「……へェ、誰に」
「キッド兄ちゃん」
「………」

押し黙ったロー兄ちゃんに私は首を捻る。
あれ、このやり取り前にもあったような…気のせい?
そう思っていたら私からビールを受け取ったロー兄ちゃんが不自然なくらい私の鼻先にビールを持ってきて、プルタブをあけた。

ブシャアアッ。

「………」
「………」
「……な、ななななにこれェッ!?」
「お前な、少しは学習しやがれ!あいつがお前にろくなもん渡した例があったか!?つーか前にもこんなことあっただろうが!」

見事に顔にかかった缶ビールの泡に私が呆然としていると、少し飛沫がかかったらしいロー兄ちゃんが眉をピクピクさせてた。
ああ、確かに前にもあった!こんなこと!
私が能天気に手を叩いているとガシッとまわされたロー兄ちゃんの太い腕。
「え」と言う前に私はロー兄ちゃんの部屋に引きずり込まれた。

「ぎゃーッ!!キッド兄ちゃんのバカーッ!」
「ふん」
「たーすーけーてーッ!!ドレーク兄ちゃん!ボニー姉ちゃん!父さーん!!」
「無駄だ、夜まで誰も帰ってこねェよ」
「や、ぎゃ、が、ああっ、あああっ、いーやーッ!!!」
「ばーか」











(バカで間抜けな可愛い妹に好きだと言ってもらえるまで、俺はこいつを虐めつづけよう)





END



家族パロディで挑戦してみました!
父ウルージと姉ボニー、兄はドレーク、キッド、ローです。友情出演でキラーさんも。
何だかお題に沿えてないですが楽しかったです!






あきゅろす。
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