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こっちを向いて(ONE PIECE:コビー)




僕には憧れの人が居る。
海賊王になるという大きな夢をもち、最初は頭ごなしに無理だと否定した僕をその人は力いっぱい殴った。根気も、根性も、何もない空っぽの僕を殴ったのだ。
夢の為なら死んでもいい。そう言った憧れのルフィさんはキラキラ輝いていて、僕には遠い世界の人間に見えた。
だけど数分後、気付いたら僕はどうしてか弱い僕という世界を突き破っていた。それはきっとルフィさんという人のおかげなんだろう、僕はいつまでもその日のことを忘れない。

僕には好きな人が居る。
海賊王になる為なら死んでも構わないというルフィさんをずっと支えている女の人だった。
あの日、ルフィさんに殴られた僕を見下ろして手を差し伸べてくれた。その人の手は暖かくて、まるで母さんみたいだな、と思い出した。
ルフィさんに笑いかけ、僕に笑いかけ、自分は戦えないけど戦ってるよ。そう笑った人にどういう意味だろうと疑問をもった。
あの人の言っていた意味が分かったのは海軍本部で過ごして数日経った時で。あの人は戦っていたのだ、悔しさに塗れながらも負けないように戦って、笑えるようにしていたのだ。
凄いと思った。同時に素敵で、胸が高鳴った。


それで僕は恋という感情に気がついた。



再会した時、彼女は僕をみて微笑んだ。
ゾロさんもルフィさんも気付かないくらいに成長した僕をみて、コビーを見て微笑んだのだ。嬉しかった。ルフィさんもゾロさんも変わってなかったし、彼女も変わってなかった。
微笑む姿、長い手足、身長、体格、えくぼ。何もかも変わらない彼女に僕は駆け寄ろうとした。
でも、止まった。止まりたくなかった。気付きたくなかった。

僕を見て笑った彼女に「誰だい?」と肩に手をまわしている男に気付きたくなかった。
あの日、僕がルフィさんに感じたキラキラとはまるで違った綺麗な金髪、パリッとしたスーツを着こなして清潔感を見せているかと思えば口に咥えた煙草が何だか曖昧なコントラスト。
彼女は僕が見たことのない顔をした。
抱き寄せられた手から逃れるように身動ぎする、照れた笑い方。


ああ、もうコビーが居るのに驚いちゃう。
彼女の口がそう動いた。


「ん?どした?コビー」
「……あの、人、誰ですか」
「あ、あいつかァ」
「そうか。コビーは会う前に海軍に入ったんだっけな」


僕の視線に気付いたルフィさんが不思議そうにして、横に居たゾロさんが何だか納得したかのような顔をした。
答えをくれなさそうなルフィさんよりもゾロさんの方が確実だ。
そういう思いでゾロさんの方に目を向ければ。


「あんなヤツのどこがいいんだろうな、あいつも。うちのコックでサンジっつーんだよ。一応あいつの恋人。ラブコックでまともなヤツじゃねえぞ。近付くな」
「誰がラブコックじゃああっ!俺は世界中のレディを愛してるんだ!!このクソマリモ!!」
「恋人居ながらヘラヘラするようなヤツはまともじゃねぇだろうがっ!!」


予想通り、恋人だった。
だけど予想に反したのは堂々と浮気宣言していること。あんまりに軽い様子だったから公認かと思って耳を疑った。
つい彼女の方を見てしまう。
曖昧な顔をしていた。悲しさとか苦しさとか全てを押し殺してダンボールにつめこんで隠したかのように俯いて浮かべる曖昧な笑顔。



あんな笑顔、知らないし、知りたくもない。



「そう、ですか」


楽しそうなルフィさんもケンカするゾロさんも気付かない。僕の眉が寄せられたことに。彼女の曖昧な笑顔に。
彼女をもう一度みれば曖昧な笑顔は消えていて、笑っていた。
ケンカするゾロさんとサンジさんを見て。そんなに面白いのだろうか。

そう思いながらずっと彼女の目を見ていたけど彼女がゾロさんとサンジさんのケンカから目を逸らすことはなかった。


つまり僕を見ることはなかった。







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END



企画サイト様「手錠」に、提出。

悲恋でやってみました。コビーくんは恋愛に積極的じゃない受け的なイメージですが求められたら一直線に対応するタイプだと思います。
素敵な企画に参加させていただき有難うございました!






あきゅろす。
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