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運命に(テニス:仁王雅治)



言い訳をさせてもらえるならば、私は受験に忙しかったのだ。そう、それはとても。何時間も頭を働かせ、塾にも行かずに勉強し続けたのだ。そう、とても。
だから私を責めるのは勘弁してほしい。例え自分の受けた高校へ行く通学路を知っていなくても間抜けだとは笑わないでほしい。
……本当に情けないということは自分で理解してるんで。友達にも大笑いをされたので。

はァと溜息をついた私に家族は全員で、「通学路を自転車で確認してこい」と命令する。
当然っちゃ当然のことなんだけど結構遠いところにある学校まで自転車で行くのは何とも憂鬱だった。
ぶーぶー項垂れる私を家から追い出すようなカタチで出した家族は今頃寿司でも食べているだろう。それが受験合格者にやることか!

まあ仕方ないので、今現在私はこうして自転車を漕いでいるわけである。

通学路の道は危険がいっぱいだった。
行きかう人々、信号無視の交差点、急にコケる人。
時々ぶつかりそうになりながらも何とか中間地点まで辿りつけた私は溜息を漏らす。
ここまで来るのに20分かかった。なら高校まで40分だろう、と単純に計算した私は背伸びする。
信号が赤から青に変わった。よし。それにしても、暇だ。じゃあ歌おう。


「じゅうごーでねーやーはよめにーゆーきー」


小さな声でゆっくりと歌う私に誰も気付かない。
だけど気付かれるとやっぱり恥ずかしいので自転車の方向を人気の少ないところへと向けた。
余談だけど何で歌うのが古いこの歌なのかというと、気に入っているのだ。単純に。
今時の曲もパワフルで凄い好きなのだけど、やっぱりふと思い出して歌いたくなるのは昔の曲だと思う。だから名曲と呼ばれるんだな。


「おわれーてみたのーはーいつのーひーかー」


と、いうのだけど覚えている歌詞なんてこんなものだ。
正直言えばこの二つの歌詞の印象やら思いいれが強すぎて他の歌詞は忘れてしまった。
何度か壊れたカセットのようにそれを繰り返して歌う私はそれでも満足していた。結局音楽は人が楽しめたらいいのだから、これでいいと思う。

さてもう一度、と数回目に歌おうとした矢先のことだった。


「ゆうやーけ、こやーけのーあかとーんぼー」
「わっ!?」
「おわれーてーみたのーはーいつのーひーかー」
「だ、へ、ど、どちらさま…?」


いきなり私よりも低音の、それも音程のいい声が聞えてきて私は慌てた。それも歌詞まで正確だ。
驚いた私が自転車を安定に走行させながら後ろを振り返れば後ろでニヤニヤと笑う男子が一人。…同じくらいの年、かな。
にしても珍しい。そう思って私はついまじまじと彼を見つめてしまった。
一つに縛ってある銀髪、つりあがった綺麗な目、整えられた眉に口元のホクロが何とも…格好いい。



「どちらさま?」
「仁王っていう。お前さんの面白い歌聞いてやってきた」
「に、おう…仁王立ちってかいて仁王?」
「仁王立ち……あんまりいいイメージじゃないが漢字はそうじゃの」
「へえ。あ、もしかして仁王くんも春から高校生なの?」
「そうじゃ。この道、通っとることはお前さんもじゃろ」
「うん。春から立海大付属高の一年生だよ」
「知っとる。だから声かけたんじゃ」


うん?と仁王くんとやらの言葉に首を傾げた。
あれ、受験日で知り合いになったっけ?こんな彼と?
そう思っていた私に気付いたのか、「気にせんでええ。ちぃっと興味があっただけじゃ」とだけ仁王くんは返した。…興味?どんなのだろう。変なイメージでも持たれてたらヤだな。


「なにやっとる」
「へ?」
「ついたぞ」


話したり考えたりしてたら何時の間にか目の前には大きくて綺麗な校舎が聳え立っていた。
流石高校ともいうべきか中からは引っ切り無しに声や音がが聞えてくる。
吹奏楽部の練習だったり、合唱部の歌声だったり、野球部のボールを打つ音だったり、練習に熱を入れる声だったり。
私に居た公立中学からは考えられないくらい素敵な学校だと思った。


「やっぱりいいね、立海大」
「そうか?」
「え?そう思わない?」
「付属中からの出身じゃからの。見慣れとる」
「あ、なるほど」


納得した私が掌でポンと音を出すと、その途端にプルルと携帯がなった。
「ごめんね」とだけ言って自転車に跨ったまま私は携帯の通話ボタンを押して、耳に当てる。
かけてきたのはお父さんだった。
どうやら寿司屋でのご飯は終わったらしい。帰ってこい、と……勝手な!


「なんじゃ?」
「うん?お父さんが帰ってこいって。もう、」


口を尖らせれば面白そうに仁王くんが笑った。
とにかく父親にそう言われちゃったら私も帰るしかない。
「ばいばい」と仁王くんにそういえば、何でか仁王くんは目を見張る。


「ま、」
「うん?」
「………や、なんでもない」
「そう?じゃあ、また高校で」
「ああ」


にやり。
何だか特大の悪戯を思いついたかのような、そんな笑い方をした仁王くんが私に笑みを向けてきた。
そんなことにも気付かずに私は自転車を家に向かって真っ直ぐと漕ぐ。


「また高校で……のぅ」


次に会えたら、覚悟しんしゃい?







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END



企画サイト様「100通りの愛」に提出。

仁王の口調が難しすぎる!実体験をもとにつくったのですが(色々と捏造もしましたが、)やっぱり無理がありますかね…!
でもとても楽しかったです。ありがとうございました!





あきゅろす。
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