迷走迷子
やっぱり山登りの途中で熟睡はできないものだ。
だけど、溜まったストレスや疲れやら何やらで結構な時間寝てしまっていたのだろう。
夕方近くになった頃、起きた私は後悔していた。
ロジャーを追わねば、と嫌がる体を起こした私はロジャーの進んだ道を通った。
でもそれはロジャーの姿が見えなくなるまでに進んだ道だ。
見えなくなったロジャーがここからどうやって進んだのかは分からないし、何よりロジャーが目指している場所も分からなかった。
ロジャーは一体どこへ行ったんだろうか。
迷子になった時のような、世界に自分一人置きのこされたような感覚にゾワッと私は体を震わせた。
山の気温は変わりやすい。友達のお父さんが言ってた言葉を思い出して、顔を上げる。雲が何だか黒い。、最悪だ。雨が?
急いでここから離れてロジャーと合流しないとと思ったのだけど残念なことにそれは出来ない。
ロジャーの居場所すら私は知らないのだ。
本当にとても怖いという感情しか私には持てず、震える手を片手で握った。
そして呟く。「ろじゃー…」と。
来てくれるわけがないなんて、聞えるわけがないなんて、分かってるけど。
こんな時は何もせずに救助を待てばいい。
―――待ってても一生こないだろう。親からしてみたら私は農業とかやりたくなくて家出したと思われてるだろうし。(実際農業とかやりたくなかったから弁明できない)
親のもとに帰る。
―――ロジャーの後をついてきた私が帰り道なんて知ってるわけない。
ロジャーを当てずっぽうで追いかける。
―――迷って、終わって、死ぬわけ?
三つの、とんでもない選択肢を選べるわけがなく、私はただ黙りこくった。
下手に物音を出せば猿か猪か、もしかしたら熊が出てくるかもしれない。蛇だっているかもしれない。
人間だけじゃなくて、ハチュウ類は嫌いだし、凶暴な動物も恐れなければいけない非力な私はただただロジャーの顔を思い浮かべた。
会い、たい。
ぎゅ、と拳を握った。
仕方ないとかいう諦めじゃない、絶対にロジャーを探して傍に居てもらうという強い決意を私はした。
こうなりゃヤケだ。火事場の馬鹿力という言葉に頼るしかない。
今の状況で恥ずかしながら言わせていただくと私は東西南北の区別がまるでつかない。
だけど、山登りなのだから上に登ればいいはずだ。
ロジャーが絶壁を登ろうが、それは要するに上に行ったということ。
私は立ち上がって上に登れるような斜面を探した。
見つけたら小走りにそこへ急いで、斜面を歩く。
ロジャーの赤のキャプテンコートを見つけたい。
その一心でひたすら歩いた。
雨雲は、もうそこまで迫っている。
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