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悲辛休憩
 


考えてみたら子供の頃から何かを避けるのだけは上手かった。
みんなで集まってのドッヂボールでも、本当に力強いボールがきたらやっぱり当たってたけど何回かは最後の一人になった覚えがある。
まあ5・6回集中攻撃されたら一溜まりもなくゲーム終了になったんだけど。


目立たないその私の反射神経を、ロジャーが見抜いたのなら、それは結構嬉しいことだ。

そう思った私は、甘かった。





「ろ、じゃー…ま、って…休憩……し、て」


息絶え絶えに死人のような情けない声を出す私をロジャーが呆れた目で振り返る。
現在、修行をしているわけじゃなく只の山登り中。険しい道のりに降りた木の根っこや岩を踏んで、ただただ上に登っていく。
絶壁を登るとかそんなんじゃない、険しい山を足で登るだけ。それでも運動神経の鈍い私からしては拷問だった。つまり、無理だ。


「数分前から弱音をはいて五月蝿いハエがとんでると思っていたが、お前だったのか」

(気付いてただろ!私だって!だから、言ったのに!根気ないって!)


心で思えど、声は荒い息に変わって空気へとける。
人をハエ扱いしていたロジャーは「………」と少し考えてから「なら後から登ってこい」と言った。は?
直ぐに踵を返して膝をあげて岩の上を歩き渡るロジャー。私はその背を見て絶句した。


「ちょっ!まっ!ロジャー!こんな山の中で後から登ってこいって言われてもゴール場所が分からないんだからどうしろと!?」
「どうにかしろ」
「あ、え、」


本当なら直ぐにロジャーを追うべきなのだろうけど、簡単に言ってくれますな。
私の体は動きたくない。できればココで一眠りしたい。と言っている。
そして平和ボケした村で育った私は自分に甘い。周りが、ロジャーが思っているよりも多分、ずっと甘い。



見る見るうちにロジャーの背中は見えなくなっていった。



ロジャーが居なくなれば、残ったのは私一人だ。
だが焦る気持ちもあるものの、すっとしたものが胸にあった。

疲れを強要させる者が居ない。
人間である私にはこれ程嬉しいものはないだろう。

荒立っていた息もロジャーと話しているうちに落ち着いた。
だけど体はまだ動きたくない、と寝惚けたことを言っている。そして心も。



ロジャーには悪いけど、もう少しだけ休ませてもらおう。



甘い私はそう思って、森林から差し込む心地よい黄色い光を浴びて目を閉じた。


 

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