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偉人遭遇



時代は大海賊時代という物騒なものを迎えた。


だけど私の生まれ育った村はそんな時代なんて意にも介さぬ平和な村。
海賊が襲撃してきたことは一度もないという平和な村に憧れをもち移住してくる者も居た。


田畑を耕し、家事の腕を身につけ、漁業やらなんやらに性(せい)を出す。


それが色々な家庭で教えられていて、みんな頷いて平穏な日々を送っていたのだ。
私も当然のごとく親から農村や家事やらの知識を与えられようとしていた。隣に居る弟と一緒に。


気がついた時は私は親から逃げていた。


一人、多くの人間が居る村でたった一人だけ私は気付いていた。
こんな平和が続くわけがないということを。
農村や家事の知識なら病弱な母のおかげで少し身についている。そりゃまだ未熟なものだけど、でも今私がしなければいけないことは他にあるはずだ。そう思った。


何より私は海に出たかった。
広がる未知の海に希望をもち、農業や家事という平穏で埋もれていく冒険者の血を捨てきれなかった。
農業や家事をやりたくない、そういう思いで村はずれの森まで走りきった私は近くの岩に手をつき息を整える。


そんな私に、いきなり声がかかった。



『強くなりたいか』



赤のキャプテンコートに黒いひげ、悪ぶってる笑み、余裕綽々のような雰囲気。微笑むとは真逆の笑みを見せ、呆けた私を映す両眼。

一瞬誰だか分からなかったけど、直ぐに私は顔色を変えた。
新聞で、父や母から、大人たちの話で聞くことがある悪名高いこの時代の創始者とも言える男。



『ゴールド・ロジャー…』



ごくり、と喉を鳴らした。

死んだという処刑の話、あれは海賊にはよくあるという身代わりだったのだろうか。そしてここに逃げてきたのだろうか。殺される、それだけが私の頭を支配した。
威圧感を放っているわけではなかったのに腰をぬかしたのは純粋な恐怖からだった。海賊の影も見えないこの平和な村で生まれた私が戦えるわけがなかった。
小さい頃、よく男友達とチャンバラをしながら「海賊にだって勝てる」と思ったことがあったけど、あれは結局遊びの延長みたいなものだ。だから今、こうして腰をついている。



『怯えるな。しかし……やはり怯えだけ、か』
『……っ』


岩の横で腰をぬかす私を、岩に体重を支えるようなかたちで見下ろすゴールド・ロジャー。


その巡り会いこそが、私にとって全ての始まりだった。




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あきゅろす。
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