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SSA!
act05 イチ君その3


カーテンで窓が遮られており真っ暗になったパソコン室。私はどうしてこうなったか扉の方へと視線を向けると慌ててる姿があった。


「す、すみません先輩……電気のスイッチ押してしまったみたいで」

「火売先生……」

「しーちゃん」


そこにいたのは女子生徒に人気の保健の先生の火売凌先生がいた。


「驚かせちゃいましたね、すみません」

「いえ……火売先生はまた女子から逃げていたんですか」

「う……はい」


火売先生は女子がすぐ集まってくる為よく逃げ回ってます。あ、保健室でちゃんと仕事はしてますよ。


「職員室にプリント取りに来た帰りに捕まって……俺、妻子持ちなのに何故構うんだろう」

「さぁ、構いたくなるからでは?つまり隙があるからです」

「う……気を付けます」

「何回聞いたことでしょうか……」

「……」


火売先生は落ち込み黙りこむ。はすみんはため息を吐き、また資料を作成し出す。


「見ての通り副理事に頼まれて資料作りの最中です。」

「資料作り……あぁ……あれのかぁ……」

「はい。」

「俺、時間あるので手伝いましょうか先輩」

「……君には保健室の仕事があるでしょう。放課後は部活などで怪我をした生徒が来るかもしれませんよ」

「そうですが……この人数じゃ時間かかりそうなので少し手伝いくらいは……」

「大丈夫ですよ……副理事も戻って来ますしイチ君も……」

「イチ君?」

「あぁ……君は初対面でしたか……こちらが……」

「……」

「イチ君?」


はすみんはイチ君に振り向く。いつもなら勝手に挨拶するのに静かだから不思議に思ったみたいだ。
私も不思議で彼と目があうと、彼はきょとんとした目を向け、次にふんわりと笑い……


「ふぇ!?」

「!?イチ君!?」

「ひなだっ!」


次の瞬間私を抱き締めた。


「!?」


爽やかないい匂いに細そうと思ったが案外がっしりとした腕……と考えてる場合じゃなくて。


「い、いいイチ君!?」


抱きつかれるなんてされ慣れていないから私は赤くなっていく。


「ひなだ……目の前にひながいる」

「わわわわわ私はここにいますよ?はい、だからは、離れてくださ」

「やだ。ひながいるのに離れるなんてやだ」

「い、イチ君?!」


離さないと言ったイチ君の腕に力が入るのがわかる。

(あわわわわ、どうにか離して貰えないでしょうか?離して貰わないと……私、私……)


「ひな……」


熱ぽく耳元で囁かれる。

(死んじゃいます!!)


「イチ君、私の生徒に手を出さないで下さい」

「??蓮水」


はすみんが私達に近寄りイチ君に話しかけた。


「蓮水の頼みでもやだ」

「やだじゃなくて……駄目なものは駄目です。リヒトにも言われてたでしょ?」

「兄さんに?」

「はい、リヒト……兄さん?」


(あれ……リヒトさんの事兄さん呼び……って……)


「リヒトさんってイチ君のお兄さんなんですか!?」


驚きの衝撃だ。見た限り一緒にいるとは思ってはいたが……兄弟だとは思わなかった。


「ん、リヒトは兄さんだよ?」

「そ、そうなんですか……」


(あれがお兄さん……見えないけどお兄さんぽいとこあるんでしょうか?)


「話はそれましたが……とにかくなんでも離れて下さい。」

「ひな」

「無視……ですか?」

「あ、あの離れてくださ……」

「大きくなったね」

「え……?」


イチ君に言われて顔を見ると優しそうに笑っていて……


「?私、貴方と会ったことが……」

「ロリコンは犯罪だと言ったそばからなにしてるんですかイチ」

「!?リヒト兄さん?」


聞きかけた声はリヒトさんによってかき消された。
イチ君はリヒトさんの方を向き、リヒトさんはそれでなにかに察したようでため息を吐きながら近寄ってきた。

(あ、引き剥がしてくれ……)


「なるほど……人格が替わってましたか……」


(?人格替わって……)


「イチ、甘泉ひなから離れなさい」

「やだ。僕、ひなとまだ……」

「……仕方ありませんね……」

「!?」

「?」


リヒトさんはイチ君の後ろに回ると目隠しをした。イチ君はビクッと震えると大人しくなり……


「たくっ……お前は……」

「!?……なんか……やわらかくて甘い匂いが……」

「ひゃっ」

「!?ひな!?なんで俺ひな抱き締めて……え?」

「いいから離れなさい。……離れないとお前をロリコン扱いしますよ」

「!?」


イチ君はリヒトさんに言われてすぐ離れた。
イチ君はわからないような顔をして困ってる。いや、こっちがわからないのだが。


「リヒト先輩これは……」

「……イチ、ちょっとこれ理事長室に置いて来てくれませんか?」

「え?う、うん……」


未だににわかってないイチ君を無理矢理追い出すように資料を押し付けるリヒトさん。
イチ君は頷くと、それを持ってパソコン室から出ていった。


「えっと……先輩」

「リヒト先輩……イチ君一体……」

「あぁ……イチは……」

「イチ君は……?」


リヒトさんは全員を見渡し、最後に私を見た。


「多重人格なんですよ」





「多重人格……?」


多重人格。それは漫画や小説で聞いたことがあり、確か人間は普通ひとつの人格を持つが彼らは複数持つ人のことをさす。


「幼い頃にちょっとありまして……それから多重人格となったみたいです」

「イチ君全然そう見えないのに……」

「そうですね……信じがたいです」

「まぁ、滅多にならないんですが……トラウマを引き起こしたか驚かしたかしない限りはね」

「……あー俺が電気消しちゃったからですかね」

「あぁ……トラウマの方ですか」

「えぇ!?す、すみません……」


火売先生は申し訳ないみたいで謝ると、リヒトさんはため息を吐いた。


「まぁ、なる時はなりますししょうがないですよ」

「なる時はなるって……」

「朝起きた時なった時もありましたし……別にあっちでも悪くはないんですが」

「なんか……子供みたいでしたね」

「無邪気で子供で素直ですねあっちのイチは。」

「……」


リヒトさんが話すなか私は先程触れられた辺りを触る。

(あたたかくていい匂いがしたなぁ……って私はなに考えてるんですか)


「理事長に渡して来たよリヒト」


「あぁ……イチおかえりなさい」


そう考えてるうちにイチ君は戻ってきて、私達の前にたつ。


「なにか言ってましたか?」

「んや、別に何も言ってないよ理事長」

「そうですか」

「……ひな」

「は、はい!?」


抱き締められた光景を思いだしていたのがバレたのかと、赤くなってイチ君に振り向く。彼は悪そうに頭をかくと、頭を下げた。


「俺、事情がわかってないけど抱きついてごめん」

「!?」

「ひな嫌だったでしょ?余り親しくない人が抱きついて来て不快な気持ちにさせて……だから」

「あ、頭を上げて下さい」

「でも……」

「い、嫌じゃなかったです」

「え」

「イチ君格好いいし……ラッキーだとは思ったくらいで……!い、いえすみません今のは……」

「本当に嫌じゃなかったの?」


イチ君は顔を上げ、私を見据える。


「は、はい」

「そっか……良かった」

「……!」

「俺、君に嫌われたらどうしようか思ってた……から……本当に良かった……」


イチ君は笑う。その笑顔は先程みたイチ君とは違ってこうも同じ顔でも違うんだなっと思いつつ目が離せず見つめてしまう。


「イチ君はそんなに甘泉君に嫌われたくないんですか?」

「?ん、そりゃあそうだよ。出来たら人に嫌われたくないよ」

「そうではなくて……その……うちの生徒に手は出さないで下さいね」

「?それはわかってるよ」

「……わかってないから抱き付いたのでは……?」

「?リヒトなんか言った?」


イチ君はリヒトさんに問いかけるがリヒトさんはため息をまた吐いた。


「別に。ほらほら資料作成に戻りますよ。火売先生もちょっと手伝ってくれません?大分時間のロスしましたので」

「は、はい……!」

「甘泉ひなも」

「はい……!」


リヒトさんに言われて、私もホッチキスを持ち、作成に戻る。

(イチ君が多重人格だったの意外だったなぁ……)

リヒトさんの話じゃ、過去に色々あったからみたいだが。

(しかし、抱きつかれて……あ。そういえば……)

大きくなったみたいなこと言ってたし、昔イチ君に会ったことあるのだろうか?

(イチ君も初めて会った気しないって言ってましたし……)

ちらりとイチ君を見る。
イチ君はリヒトさんに文句をいいつつ作業をしている。

(まさかね……)

私は気にしないことにして、作業を進めた……


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