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月狼

 扉が開く音が聞こえてセリは顔を上げた。
 やがて部屋の扉も開いて黒髪の青年が入ってくる。
 青年はセリに一瞥くれた後、ソファまで歩いてきてドサッと手に抱えた荷物を机の上に置いた。
 その後ろからもう一人青年が入ってくる。
 好き勝手に跳ねた灰褐色の髪をゆるく無造作にくくり毛先は肩に揺らしている。焦点の合わない暗雲のような灰色の瞳と優しい笑顔をたずさえた青年はセリに目を向けた後、興味深そうに目を細くした。

「この子がそうなの?」

 どこか楽しげな歌うような口調。
 セリはその青年が自分のことを言っているんだと思って体を強ばらせた。

「ああ」

 黒髪の青年は適当に答えて一つの紙袋をセリに投げてよこした。
 セリはあわてて受け取って中をそろりと覗き込んだ。

「服……?」
「そ、僕が選んだの」

 セリはそう教えてくれた灰褐色の青年に信じがたい目を向ける。
 灰褐色の青年はどうしたものかと瞬いて、納得したように笑みを深くした。

「僕はノヴァート。好きなように呼んでね」

 セリは恐る恐る口を開いた。

「ノヴァートさん、目が見えないんですか?」

 ノヴァートは目を丸くしてすぐ後に気まずいそうに眉を垂れた。
 セリは、以前に目を見えない人に会ったことがあるのでなんとなくわかったのだ。

「すごいね、すぐにわかるなんてさ……前にちょっと、ね。仕事しくじちゃったから」
「痛くないんですか? 見えますか?」

 ノヴァートは心底驚いたように息を詰めた。

「あ、ごめんなさい。見えるわけないですよね」

 セリは知らず知らずの内に差し出していた手を引っ込める。
 ノヴァートはゆるゆると頭を振って嬉しそうに笑った。

「驚いただけだよ。前にもそう言ってくれた人がいたからさ」

 セリは不思議そうに瞬きした。

「風呂場かどっかで早く着てこい」

 急に黒髪の青年にそう言われてセリは体をビクリと動かした。

「わ、わかりましたっ」

 セリは声が裏返るのも気付かずに紙袋を抱えて部屋を飛び出した。
 ノヴァートは可笑しそうに笑って黒髪の青年を見た。かなり霞んではいるが人がいるかどうかぐらいはわかる目を意地悪く細くする。

「もう、焼きもち?」
「……女たらしが言うな」
「そんなんじゃないよ」

 青年はどこがと毒づきながら煙草をくわえて火をつけた。ため息と一緒に紫煙を吐いてソファに投げやりに体を沈めた。

「用はすんだろ、ワインなら台所の棚から好きなの取って、さっさと消えろ」
「えー、セリちゃんが服を着たの見てから帰らせてよ」

 ノヴァートが子供のように口を尖らしてから言った。
 青年はそれを黙殺する。今にも殺しかねない雰囲気をかもし出し、呑気に笑うノヴァートを睨み上げた。

「そんなに怒ることないだろう? ……はぁ、仕方ないね。お邪魔ものは退散するとしますか」

 ノヴァートは肩をすくめてやれやれと言いたげに部屋を出て行った。
 しばらくしてまた扉が開く。
 セリは顔だけを覗かせてちらりと青年を見た。

「あれ……ノヴァートさんは?」

 青年は顔をしかめた。

「なんで、あいつを探すんだ」



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あきゅろす。
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