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月狼
壁を隔てたその向こうT
 ロウは薄く硝煙の上がる銃を持つ手を下げた。電源を切っていた携帯の電源を入れ、いくつかのボタンを押して、それを耳に押し当てた。

 着信音が途切れ、義務的な声が応答する。

「終了した」

 そう言ったロウは相手の返事を待たずに通話を切った。

 むせ返りそうな血臭。

 濁った瞳。

 ロウはそれに一瞥もくれずに、その部屋を後にした。

 朝日はいつものようにロウを照らした。
 ロウは気だるげに煙草を取出し、火をつけてそれをくわえた。廃墟の周りに広がる森に隠しておいた車に乗り、いつもの場所まで走らせた。
 車の外では年頃の少年達が笑い合い、走り去っていく。
 ロウはサイドミラーごしにある一人の少年に目を止めた。

 こげ茶色の髪を風に踊らせ、目を細めて笑う姿がロウの脳裏をよぎった。



 青年は喉仏に向けられた剣先に息を呑んだ。

「お前、強いなっ!」

 青年よりも一回りは小さいように見える少年は屈託なく笑う。
 青年にとって、間抜けとしか思えない奴に追い詰められることは我慢しがたいことだった。

「殺せ」

 青年は忌々しく吐き捨て、その少年を睨み付けた。闇のように黒い前髪から覗くのは憎悪に満ちた闇よりも暗い瞳。

「お前、死にたいのか?」

 少年は愛嬌のあるこげ茶色の目を丸くして首を傾げた。

「関係ない。殺せと言っているんだ」

 少年は青年に向けた剣先をどけて、代わりにこぶしを振り上げた。一瞬にしてこぶしをロウに突き付ける。


「お前、やっぱ強いよ」


 少年は愉快に笑う。
 少年が握るこぶしはロウの鼻先で止まっていた。
 青年は瞬きもせずに少年を睨み付けていた。

「俺、アラタっていうんだ。お前は?」

「…………R00127」

「それ番号だろ? 名前ねぇーの?」




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あきゅろす。
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