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月狼

 ロウからは返事も相づちも無い。
 セリは静かに吐息をこぼすとロウの背中に回した腕を少しだけ強くした。

「ロウさん……私が出ていってから……三日間、ご飯食べていないんでしょう?」

 ロウは答えない。

「ロウさん、そうなんでしょう?」

「……水は飲んでいた」

 セリがもう一度聞くとロウはボソボソと口を開いた。
 肩にかかる息がくすぐったい。

「それ、屁理屈って言うんですよ」

 セリは目を眇めた。ため息をついて話を取り直した。

「私はロウさんを許していません。でも……ほっとけないんです」

 セリは困ったように眉尻を下げて笑う。


「だから、もう諦めました。ロウさんの所から離れたりしないことにします」

 話が終わってもロウはセリを解放しなかった。
 セリは飽きることなく、その広い背を優しく叩く。


「ロウさん」

 吐息のような声がロウの耳をくすぐった。

「何だ」

「少しだけ、離してください」

「いやだ」

「……朝日がきれいなんです。ロウさんも見ませんか?」

 ロウは顔を起こしてセリの背中に回って腕ごと抱き締めた。

 朝日がビルの間から頭を出して、スラムを光で染めていた。
 セリが「きれい」と感嘆の声を漏らす。


 セリの髪も太陽に負けないくらいに光に反射していた。


 ロウはまぶしそうに目を細め、その髪に自身の頬を寄せた。


 いつの間にか、霧は晴れていた。


【Z霧が晴れた】
- the mist has cleared -


fin.


[血は争えない




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