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月狼

「え? 服のお礼してないから……」
「買ってやった俺には礼を言わずにか」
「そういうのじゃありませんっ!」

 セリは青年の小馬鹿にしたような言い方に腹が立って、つい声音を荒くした。

「へぇ、お礼してくれるんだ?」

 青年は冷ややかな目でセリを射ぬく。

「あたり前です」

 セリはコクリと頷いて応じた。
 青年は口端をわずかに上げて煙草を灰皿に押しつけた。

「じゃ、お礼してもらおうか――あんたで」

 セリが言葉を理解する前に青年はセリの軽い体を持ち上げてベットの上に押しつけた。逃がさないようにセリの腹の辺りにまたがる。

「何、する気、ですか」

 セリは息継ぎをするように言葉を噛み締めて聞いた。

「セックス」
「…………っ」

 青年はさも当然のごとくセリの唇を指でなぞった。

「口開けろ」
「な、何言っ――!」

 セリが非難の声を上げようとした隙を逃さず、青年は吸い付くように唇を重ねた。
 口内に舌を這わせ、逃げる舌を絡めとる。角度を変えて何度もそれを繰り返す。
 セリの荒い息はいつしか甘いものへと変わっていた。

「……んっ……ゃ」

 否定しながら振る首は弱々しい。

「何、止めてほしくないの?」

 青年は可笑しそうに目を細めた。
 セリは潤んだ瞳で青年を睨み付ける。息苦しいのを我慢して声を絞りだす。

「違います」

 青年は片眉と口端を上げ、セリの首筋に顔を埋めた。

「…………っ!」
「声、我慢しなくてもいいだろ」

 耳に響く低い声。
 セリは顔を赤くして震えるように首を左右に振った。

「いや、です」

 セリは消え入りそうな途切れ途切れの声で返す。

「勝手に言ってろ」

 青年はかまわずに服の上から胸を愛撫した。
 ビクッと体を震わせたセリは声を上げるでもなく急におとなしくなる。
 青年は観念したかと内心、得意に思ってセリの恥辱心で歪んだ顔を見るために顔を上げた。
 目の先には恥じらいに赤くした顔でも泣き顔でもなく、ぐったりとした顔があった。血の気はいいが健康そうには見えない。

「あんた……熱があるのか?」



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あきゅろす。
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