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竜が舞う 上

竜が舞う 上


昼過ぎ、雲ひとつない青空に夏の終わりの太陽が高く昇るころ。
燦々と輝く光は米沢城の庭に茂る木々の葉や小さな池の水面を照らしてきらきらと反射していた。
木々の下には濃い影が形作られ、庭の緑を一層濃く見せる。
その庭を見渡せる廊下を、昼餉後に軽く剣の稽古を終えた政宗が歩く。
そして稽古の相手を務めた小十郎は政宗の少し後をぴたりと付き従っていた。

「小十郎、お前の誕生日partyをすることにした」

いきなりの振り返った政宗にぶつかりそうになって慌てて足を止めた小十郎は、partyという南蛮の言葉を政宗がどんな時に好んで使っていたかを思い出して、ひやりとした。

「パーティ、とは……戦をするおつもりで?」
「No!あー、誕生日、会?まぁ要するに宴だ宴」
「……政宗様」
「小言は聞かないぜ。この前俺がお前に何が欲しいものがあるか聞いたときに答えなかったんだからな」

そのことは小十郎の記憶にしっかりと残っている。
一週間ほど前だ。
政務を終えて煙管を燻らせていた政宗が聞いたのだ。
「小十郎、お前欲しいものはないのか?」と。そして小十郎はこう答えたのだ。
「今の生活に満足しているから別段欲しいと思う物はない」と。
それは欲深く思われたくないとか、主の手前だからと気を遣った答えではなく、本心で答えたはずだったのだが。

「別に大それたことしようってんじゃねぇ。皆で夕餉を食べて、そこに酒とちょっとした余興がつくだけだ。ここんところ何にもなくてちょっとだれかかかってるし、気分転換にも。いいだろう?」

畳みかけるように政宗が小十郎に尋ねる。
この言いよう、「民の納めた税を蕩尽するおつもりか」と言う小十郎の小言を封じるために予め考えられたものに違いない。
そう言えば主はここ最近珍しく政務を前倒しにやっつけていた。
これも「政務を蔑になさる気か」という小言封じだったのか。
考えたな、と小十郎は心の中で呟いた。
加えて事後報告なのだから前々から計画されていたに違いない。
しかもいいだろう?なんて上目で見つめられては断れるはずがないのだ。
自分のためにされた努力を思えば自然と頬が緩んでしまう。
だから体裁を取り繕うために小言の一つでも言いたかったのだが、真っ先に思いつく小言は先手を打たれてしまっている。
小十郎は小言の代わりに小さくため息をついた。

「そういえば、満月はもうすぐだったか?」
「今夜あたりかと」
「あぁ、じゃあ今日だな、partyは」

ぬけぬけと言い切った政宗に小十郎は今度は盛大な溜息をついた。

「政宗様、お気持ちは嬉しいことこの上ありません。しかし家臣一人を贔屓にすればまわりにそれをよく思わない輩も出てくるのですよ」
「Ha,そんなやつがいると思ってるのか、お前」

その時、廊下の向こう側から二人の男がやってきた。
二人は政宗の小十郎に気付くとすぐに頭を下げたところに政宗が声をかける。

「今夜小十郎の誕生日partyをやろうと思うんだが、どうだ?」

勢いよく上げた二人の顔はきらきらと明るかった。

「パーティですか!?しかも片倉様の誕生日祝いとくればこりゃあめでたい!」
「筆頭、酒も飲んでいいんですかね?」
「当たり前だろ?」

政宗は右の口角を吊り上げてそら見ろ、とでも言いたげに小十郎に目をやる。
掛け値なしに自分と主を信頼してくれているのだから嬉しくないはずがない。
だがお前ら、もう少し自己顕示欲とか出世欲とかないのか、と小十郎は呆れを隠せない。
そうして小十郎はまた無意識にため息を零してしまった。 だが、主やそんな家臣たちが手放しで自分を祝ってくれるというのだ。
今夜が待ち遠しい、というどこかそわそわと浮き立つような気持ちが小十郎の中に芽生え始めていた。






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 後書き☆

小十郎の誕生日は12月4日?らしいのですが明確に分からない、ということなので。
誕生日を教えてくれないなら祝ってしまえ!という感じで政宗主宰小十郎誕生日party企画が発動しました笑


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