スクランブル・マンション05
しとしとと朝から降り続けている雨は部屋の中にまで湿気と鬱陶しさを運んできた。
夕食を終えた佐助と幸村は、特にすることもなかったので気分転換に部屋を出た。
すると広間には先客がいた。
政宗と元就だ。
ここにいるということはどちらも相手がまだ仕事から帰ってきていないのだろう。
政宗と小十郎がここに越してきて、いつからか夕食前のこの時間に雨が降っている時はしばしばこうして二人でいることがあった。
机の対角線上に座っていて、何となくその位置が二人の関係を表しているようで佐助はへぇ、と心の中で呟いた。
座り話し込むのでもなく、かといって拒むのでもなく、ただそこにいる。
似てないようで似た者同士なのだ。
おそらくそれは、二人も感じているのだろう。
相手の中に自分と同じ共通点を見出している。
今だって、きっと相手がまだ帰ってきていない寂しさを共有している。
だから、相手の存在を自分のテリトリーのぎりぎりにおいて意識しているのだ。
独り自由奔放に生きる野良猫に憧れを抱きながらも、飼い主の温もりを忘れられない飼い猫に似ている、と佐助は思う。
「政宗殿、元就殿、お二人でいるのは珍しいでござるな!」
気配りを知らない幸村は二人に遠慮なく声をかける。
やれやれ、と思いながらも佐助は幸村をフォローするために少しテンションを上げて話す。
「ほんと、二人が一緒にいるって珍しいね、どうしたの?」
「動物が感情を持っておるかどうかについて話していた」
「……うん、5分くらい前まで」
「二人は動物が好きなのでござるか?」
「……Ah、まぁ、猫とかなら好き、かな」
もともと小十郎以外の人とコミュニケーションが苦手な政宗が、気を遣って話そうとしているのがなんとなくぎこちない。話はそこで終ってしまって、あたりには静寂が訪れた。
「そういえば、学園祭は来週の火曜日からだったか」
それを破ったのは元就の独り言とも問いかけともとれる言葉だった。
「そうでござる。某学園祭の間はお館様の所へ参上する予定ですが――」
まずい、と佐助が思った時にはすでに遅く、
「そう言えば政宗殿は実家に帰ったりはしないのでござるか?」
幸村は政宗にそう問いかけていた。
政宗の表情が一瞬翳る。
あちゃぁ、とため息をついた佐助が二人から目線を外すと同じことを思っているのだろう、元就と目があった。
「実家……は、ない」
嘘をつくことができない性格なのだろう、正直に告げた政宗は引き攣った笑顔を浮かべようとしていた。
が、それも虚しく声が尻すぼみになった声が忠実に政宗の心情を表していた。
「ない、とはどういう――」
「幸村」
「そのままの意味だ」
元就が幸村を制したのを遮るように、政宗はそう言った。
わざといつもよりはっきり出された声には、自嘲的なニュアンスさえ感じられた。
これ以上触れてくれるな、と言うかのように政宗はすっとその場を立ち、三人に背を向ける。
「真田幸村」
部屋のドアの手前で政宗が立ち止まり、振り返った。
「俺は小十郎さえいればそれでいいんだ」
そうしてぱたり、と閉められたドアの音が、やけに大きく響いた気がした。
「……すまん猿飛、あれは我の失言であった」
「いーや、俺も悪いよ。旦那を止めれなかったからね……いい、旦那!伊達ちゃんに過去のこと聞くのはだめだからね!伊達ちゃんはとってもデリケートな子なんだから」
「そ、そうであったのか……申し訳ない」
しゅん、とうなだれた幸村をそれ以上二人は責める気にならなかった。
三人はどうやって政宗に謝るか考える。
「某、謝りたいのだが……今はその、やめておいた方が良いのだろう」
「そうだね、旦那良くわかってんじゃん」
「やはり……片倉に話してフォローしてもらうしかないだろう」
元就の言葉に三人は深くうなずいた。
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