御題 それじゃあ、そろそろ始めようか。(スマユリ、パロ) 月のない夜。 夜鳥も声を出すことを恐れたかのような、闇と静寂だけに支配された夜半。 ランタンに燈した灯を見詰める君の瞳は何処か心許ない様子。 ぼくは、そんな彼に思わず笑みを零してしまった。 「それじゃあ、そろそろ始めようか」 成る丈優しく言ったつもりだったけれど、静か過ぎるこの部屋では思いの外よく響いてしまい、彼の肩はピクリと揺れた。 それでもぼくを見詰めたその表情は相も変わらず凛としていて、毅然としていて。 (壊したくなる) 「で?君はぼくに何をくれるのカナァ?」 「何って…」 「まさか、何もくれナイの?そんなはずはナイよねぇ…。だってぼくは、」 これから、君の1番欲しがるモノをあげるというのに。 耳元でそう囁けば、彼は僅かにその表情を歪めた。 ぁ、その表情イイね。 なんてことは口に出さず、艶やかな髪を弄ぶ。 「…何を渡せばいいのだ」 きっと、誰も気付かない。 平静を装うその声が、ほんの微かに、震えていることを。 きっと、誰も気付けないだろう。 (まぁ、ぼくと彼以外は此処にいないのだけれど) 知らず、笑みが濃くなっていく。 「そうだねぇ…、『君の1番大切なモノ』って言うのがきっと妥当なんだろうけれど……そんなの、詰まらナイじゃない?」 白く、細い首に指を這わす。 そうして徐に彼の顎、唇、頬に触れ、悪戯するようにその耳朶を甘噛みして。 そっと。 「君の『自由』を頂戴?」 「…っ、」 「君の『自由』全てを。少しでもぼくから離れたら駄目。放してなんかあげないよ。他のことも考えないで。ぼくだけを見て、想って、触れて、感じて。そうでなけりゃ、君の欲しいモノ、あげないよ…?」 薔薇の香りのする首筋に顔を埋め、最後に笑えば、一瞬だけ彼が息を呑んだ。 だけれど、ぼくが痕を残そうとした時、不意に彼が笑ったような気配がして。 もう壊れた?なんて思いながら顔を上げれば。 「くれてやる」 自嘲でも、諦めでもない、何処か勝ち誇ったような微笑。 それが、暗闇の中、ぼくを真っ直ぐと捕らえる。 (あぁ……この顔だ) あの夜、初めて逢った彼の見せた、プライドの高いその笑み。 (この顔が、ぼくは好きなんだ) (大好きだから、ぼくは、この顔を、) (ブチ壊したいんだ) 月の見放した夜。 夜鳥も夜の獣も全て怯え震える夜。 唯一の灯を吹き消して。 「自分の舌、噛まないよう気をつけてね」 「な、…っ?」 何か言いかけたような彼の口を無理に塞ぎ、その咥内に流し込むのは、ぼくの汚れた血。 そう、闇に住まう者の、骨の髄まで闇に穢れた血。 それを飲めば、 「君の望むモノが手に入るよ」 光を犠牲にし、闇を。 君は、ぼく達の仲間になれる。 そうして、ぼくだけのモノになる。 「オメデトウ」 あぁ、汚い夜に君の綺麗な悲鳴が谺する。 あんなにも艶やかだった黒い髪は、月よりも無垢な銀糸へ。 海よりも深かった碧い瞳は、血よりも淫猥な紅へ。 「ヒヒッ……君を歓迎するよ。ユーリ」 さぁ、何処までも深い闇に堕ちて行こう。 奈落よりも深い底へ。 もう後戻りは出来ないのだから。 +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ 最近ネタがなかなか思い付かず、お話を一日一題以外書けていなかったので、お題をお借りしてきました! 台詞のお題は以前からやってみたかったし。いい機会です! そしてお題消化の第一弾は、人間ユーリが悪魔スマと契約して吸血鬼になる設定でした! この設定、結構大好きなんです(^q^)一日一題でも前にやったネタですが!← ……というか、スマユリならどんな設定でもイケるwww それでは、最後まで読んでくださり有り難うございました! 消化、頑張ります! 11,04,24 [次へ#] |