御題
カラダに染み付いていて(紅金)
オレは、ユーリを護る為に生まれたんだ。
ユーリを護る為に、存在するんだ。
ユーリは人を嫌わない。
だから代わりにオレが人を嫌う。
ユーリは人を疑わない。
だから代わりにオレが人を疑う。
ユーリは人を傷付けられない。
人を傷付けることが怖いから。
だから、自ら自分を傷付けようとする。
人を傷付けるくらいなら…と、自身を傷付けてしまうんだ。
だからオレは、ユーリが傷付かないように…………代わりに傷付いた。
それが、ユーリを傷付けることになると解っていても、
オレは、「ユーリを護る為に」という本能には、逆らえなかった。
そうしていつも、ユーリの代わりに、オレが総てを疑い、総てを嫌い、
代わりに傷付いて。
(大好きな家族を疑った。でなけりゃ、父親の暴力に堪えられなかった)
(大好きな家族を嫌った。でなけりゃ、誰も嫌えないユーリをオレは諭せなかった)
そして………、
(大好きな父親からの暴力で傷付くユーリを護りたくて、オレはユーリの代わりに傷付いた)
(血を飲めないことで父親を傷付けてしまうことにユーリは怯えていたから、
だからオレがユーリと替わっていた)
血を拒むユーリがあいつから暴力を受ける。
その瞬間に、オレはユーリの体を借りた。
つまりは、二重人格者によくある人格交代というやつ。
その時だけ、オレはユーリの体の中へ戻り、ユーリはオレ…『シオン』になったんだ。
そうすれば、傷付くのはオレで、ユーリじゃないから。
そして、暴力を受けた後、オレは受けた傷をそのまま受け負って、また『シオン』という別の人物……普段の姿に戻った。
そうすれば、傷を負うのはオレで、ユーリじゃないから。
そうして、自分にやれる限りのことはしてきたつもりだった。
ユーリを逆に傷付け、追い詰めてしまうことになっても、
目の前でユーリが傷付くのを見ていられなかったんだ。
(…なんて、ただの自己満足)
傷付くことはオレが引き受け、
その傷はルリが癒してくれていた。
オレたちは、ユーリが何よりも大切で、
ユーリが総てだったから。
…………でも、
(…でも、あいつはもういない……)
頬を優しく撫ぜ、吹き抜けていく風が気持ちいい。
何処かに咲く花の香りを連れたそれは、穏やかすぎるほどの安らぎをくれる。
ふと、遠くを見遣った視界に古城が見えた。
それは、今でもユーリが住まう城で。
あの時から多少古びただけで、何も変わらないあの城で。
(でも、あそこにはもう……あいつはいない)
ユーリに無理矢理血を飲ませる奴はいない。
ユーリを叩く奴はいない。
狂った末に、ユーリまでをも殺そうとした奴は……もういないんだ。
だって、あいつはスマイルが………。
だからもう、いないんだ。
頭を振り、傍らに留まった蝙蝠達を見下ろす。
そっと撫でてやれば、彼等は嬉しそうに鳴いた。
(……あいつは、もういない。
つまりは……オレがユーリを護る理由はなくなった…)
だって、オレは……傷付くユーリを護りたいと思って、
ユーリを護る為に、ユーリから生まれたんだ。
だのに、ユーリを傷付けていたあいつが今はもういない。
なら、オレはいったい何からユーリを護ったらいいんだ?
オレは、いったいユーリに何をしてあげたらいいんだ?
何がしてあげられるんだ?
オレがここにいる意味なんて…………あるのか?
「おーい、シオン」
すると、ふと、自分の足元から声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声につられ、俯けば。
「シオーン。いい加減降りてこいってー」
紅髪の男が、オレが腰を降ろしている木の根本にいた。
こちらを見上げ、尚もしつこくオレの名を呼ぶ。
「――…呼ぶんじゃねぇよ」
翼を拡げ、すとん…と草の上に降り立てば、そいつはにやっと笑った。
金色の瞳を細めながら。
「やっと降りてきたか」
こいつ……また、来やがった。
ついこの間、偶然この森で逢って以来この人狼は度々オレの処にやってきた。
毎日同じ場所にいる訳じゃないオレを、いつだって捜し当てる。
たぶん、その獣の耳で音を聴き、獣並の嗅覚でオレのことを探り当ててんだろ。
しかも、オレ…………お前に名前教えたことねぇよな?
なんで知ってんだよ…。
気に喰わねぇ。
「っあ!おい……何処行くんだよ」
「関係ねぇだろ」
「いい加減ちょっとは懐けよ、シオン」
いかにも軽そうな笑みを勢いよく振り返っても、奴は表情を変えずにオレを見詰めていた。
「……名前、呼ぶんじゃねぇよ」
それは、誰かが気安く呼んでいい名前じゃない。
ユーリがオレにくれた、大切なものなんだ。
何処の馬の骨とも知れない奴が容易く口にするな。
あぁ……苛々する。
「オレに、近寄るんじゃねぇよ…」
オレの目の前から消えろ。
誰も近寄るな。
オレは誰も信じない。
オレは誰も必要ない。
いつか裏切られ、傷付けられるのだから。
必要なのは、ユーリとルリだけ。
あの2人が居れば、それだけでいい。
他は何もいらない。
「…オレに………構うな」
何もかもを疑い、嫌い、自ら遠ざけ。
そうすれば、傷付かないで済む。
もう……もう、傷付かない。
関わらなければ、怒声を浴びせられることも。
叩かれることも。
失うことも。
もう……もう…。
「…………そう言うんなら……そんな面やめろよ」
そっと、伸ばされた腕に反応が遅れてしまい、その手がふとオレの眼を覆う。
それは、優しい……穏やかな、温もり。
……触るな。
温かい温もり。
……触るな。
大きな……大きな、手。
まるで、……………幼い頃のユーリの記憶に残る、あいつみたいに……。
「………る、な…」
縋る術なんて知らない。
弱さを晒す術も知らない。
甘え方すら知らない。
だって、いつだってオレは、ユーリを護ることだけを考えていて…。
それ以外は考えたことなんてなかった。
する必要性もなかったんだから。
ユーリの代わりに人を嫌い、疑い、
傷付く前に一歩下がり、非は自分にあるかのように見せ、ただ……ただ耐えた。
傷付く前に、自ら傷付くことを選んでいた。
反抗して自ら先に傷付きに行けば、叩かれるのをただ待つより……遥かに気が楽だったから。
(悪いのは自分だと、必死に言い聞かせたある種の自己暗示)
だから…………。
「……泣いてんじゃねぇよ…」
オレは、この手の払い方を知らない。
払って、こんな弱い自分を何処かに隠してしまいたい。
だのに、払いたくなくて、動けなくて。
「シオン…」
他人を安易に受け入れられない。
過去に負った傷が深く、痛すぎたから。
だから今でも、『他人の受け入れ方を知らない』。
けれど、そんなたったのそれが深く根強くカラダに染み付いていて、
でもその『たった』が大きすぎて、
オレはどうすることもできない程に辛く哀しい葛藤の中、
何もできずにただ……泣いていた。
紅犬と金ユリの馴れ初めあたり。
金は今よりツンツンしてたらいい。デレはユーリと黒にのみ。
紅は……………出逢ったばかりなので、まだただのちゃら男←笑。
1番直情的で真っすぐな金は、1番自分の存在で悩みそう。
ユーリを護る為に生まれたのに、護る意味がなくなってしまって。
どうしたらいいのか解らなくて。
でも、体に染み付いた(条件反射の)癖はなかなか抜けない。
昔から他人を突っぱねることしか知らないし、してきていないから、今更誰かと関わるなんてできない。
仕方がわからない。
でも、確かに誰かの温もりは欲しくて。
自分だけの、ユーリと黒の元じゃない別の安らげる場所が欲しくて…。
そんな、金の葛藤でした★
お題…………無視しちゃったかなっ?orz
この後の、どうやって紅と金が今のような関係になれたのかも今度書きたいですねぇ。。。
あ、翠ユリはまだいない頃です。
つか、出来上がってないと思ったらとっくに出来上がってました…orz
(春頃にね←)
09,07,17
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