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御題
あの日の映像(スマユリ)





 今も、夢に見るのは、あの日の映像。












 通い慣れた道。

 見慣れた風景。

 ぼくは、ここを通る時はいつだって上機嫌。


 だってこの道を行けば、この見慣れた風景を過ぎれば、
 目にすることができるのは君の住むお城。



 ぼくは誰にも気付かれないよう高い城壁を、透明になって擦り抜ける。

 そうすれば、ほら。
 目立たずに敷地内へ入れてしまうから。



 別に、厳しいユーリの父親以外にだったら見つかってしまってもいいんだけれど、ユーリに心配をかけたくはないからね。

 だから、ぼくは極力誰にも見つからないように庭を進んでいく。


 やっと森のような庭と綺麗に手入れのされた墓地を抜け、目前に聳え建つように現れた巨大な城を見上げた。


 その見上げた先に見つけたのは、お目当てのユーリの部屋。

 ぼくはその部屋の窓を見上げて、知らず笑みを浮かべた。



 だって、あそこには大好きなユーリがいるんだ。



 ぼくたちはいつも父親の目を盗んで、遊んでる。


 理由は知らないけれど、ぼくは彼の父親によく思われてないらしく、
 2人一緒にいるところをあいつに見つかると、ユーリは厳しく叱られてしまうんだ。




(……透明人間の分際で、って……前に言われたっけ)




 あいつは以前、初対面のぼくにそう言った。

 ぼくは別に、あいつの事情なんて知りたくもないし、そんなことを言われる筋合いもないから気にはしなかった。


 けれど、ユーリはそれを聞いて、悲しそうに顔を歪ませていたんだ。


 優しいユーリは父親に叱られても、ぼくと繋いだ手を決して離そうとはしなかった。

 あいつがいなくなった部屋で、「スマイルはスマイルだから」と、泣きながらそう言ってくれたんだ。




(ほんと………優しい)




 同情なんかじゃなくて、ユーリは本当に優しくて。
 その惜しみない優しさでぼくを包み込んでくれる。



 だから、ぼくは、ユーリが大好きなんだ。


 ユーリのお陰で、ぼくはここにいる。

 今のぼくは、“スマイル”としてここに存在していられるんだ。




(……………大好きな、ユーリ)





(ぼくは、君の為ならなんだってできるよ)




 だって、君がぼくに総てをくれた。

 この感情も、この名前も、この存在も。


 全部、君がくれたんだ。


 だから、ぼくはそんな君の為になんだってする。

 なんだってできる。


 君を守る為に、この身が果てることさえも厭わない。




(だから、お願い……)




 ふと、見上げていた部屋の窓が開き、カーテンが引かれる。
 そして、その間から大好きなあの子の顔が覗いた。


 青い空の下、無邪気に咲き誇る向日葵のような笑みを浮かべ、ぼくに手を振る君。

 ぼくもそんな君に手を振ろうと、腕を上げた瞬間。






『―――スマイル!!!!』






 突然、視界が暗転し、体中に激痛が走った。



 何も考えられない頭に、ユーリの悲鳴とも取れる、ぼくを呼ぶ声が響く。




 あぁ……ユーリが呼んでる。

 ユーリがぼくを呼んでる。



 行かなきゃ。



 行かなきゃ、あの子の元へ。


 あの子の、傍へ。






 ふと、視界に光が戻り、見慣れた部屋が目前に拡がる。

 そこは、通い慣れた部屋。


 ユーリの、部屋。





(―――……ユー、リ……)





 辺りを見回すが、大好きなあの子の姿が見えない。

 見つけられない。




(………ねぇ、どこ?どこにいるの?)




 嫌な胸騒ぎに駆られ、ふと見遣った、ベッド。

 よく2人でその上に寝転がり、話をしたりトランプをしたりして遊んだ、ベッドの上。





(………ゆ、……り)





 ねぇ、やめて。


 やめてよ、そんなお遊び。

 そんなお遊びはぼく、嫌だよ。



 少しずつ近付けば、嫌でも目に入るその光景。

 白いベッドの上で、本物の白い陶磁器の人形のように。


 死んだように眠りに就いている………………





 やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて





 ヤメテ!!!!!!








「――っつ!!」




 目が醒めたのは、いつものベッドの上。

 一気に上体を起こせば、柔らかいベッドがギシリと軋んだ。




「………はぁ、はっ……っはぁ」




 真夜中の空気はやけに冷たく、そして静か。
 その所為か、ぼくの荒い呼吸音が部屋中に木霊して耳障り。


 暫く肩で呼吸を繰り返し、顎を伝った汗を拭えば、そこではたと思い出した。




「ユーリ!」




 嫌な焦燥に駆られたまま、がばっと身を捻れば、
 穏やかに眠っているユーリを隣に見つけた。


 その姿を見て、ぼくはやっと真面に息を吐いた。





(……………夢…)





 今のは、夢だったんだ。

 だって、隣には小さな寝息を漏らし、穏やかな顔で眠るユーリがいる。


 その肌は白い陶磁器のようだけれど、人形なんかじゃない。
 眠っているだけ。



 だって。





「…す、ま……」




 こうして眠っている時でも、ぼくの名を呼んでくれる。

 ただ眠っているだけ。



 そう……眠っているだけ。





「………………ユーリ…っ」





 あの時とは、違う。

 ただ、普通に眠っているだけなんだ。


 だって、朝にはその紅い瞳を見せてくれる。

 その瞳にぼくを映して、ぼくの名をそっと呼んで、そして、



 おはよう、と……言ってくれるから。








 大好きな、ユーリ。

 君を、絶対に守りたいとぼくは願う。




 だから………お願い。


 もう、ぼくを置いていかないで。

 こんなだだっ広い城に、独りにしないで……。





 今も夢に見るのは、君が永い永い眠りに就いてしまったあの日のこと。



 ぼくを独り置いて、眠りに就いてしまったあの日の君の映像。




 ぼくは今でも、夢に見る。


 酷く恐ろしく、冷たい、
 あの日の映像、を。





(明日もどうか、“おはよう”とぼくに言って)








長いですね……((苦笑。


スマイルにとっては、ユーリが200年もの眠りに就いちゃった時のことが、今でも忘れられないほどに衝撃的だったんだろうなーと。

ある種のトラウマになるくらい。


だって、人間では到底無理な、気が触れてしまうほどに永い時をたった独りで待ち続けることは容易ではないと思うんですよね。
本当に、気が狂うほどの恐怖と孤独があったと思います。


近くにいるのに、何処か遠くにいるユーリ。

こんなにも傍にいるのに、
指先すらも触れ合えない距離。



そんな時を待ち続け、今でもユーリに一途なスマは正直カッコイイなぁ…と(´∀`*)好きすぎて重く、壊れてる感がありますが((笑笑!


どうも有難うございましたッ★



08,09,09
(修正、09,04,09)




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あきゅろす。
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