桜並木の下で 1-3 (あぁ……長閑だな) SHLの始まった教室に、担任であるDTOの声が響く。 けれど、私はつい、天気のいい窓の外に視線を向けたままでいた。 だって、窓から見える景色があまりにも綺麗に見えたから。 青い空と薄紅色の桜。 風に吹かれて、その花びらが音もなく、美しく舞っている。 確かに、タイマーたちと花見をするのもいいかもしれないな。 なんて、自分の頬が微かに綻ぶのを感じた瞬間。 「今日、転校してきたヤツがいてな、そいつが今日からこのクラスのメンバーに新しく加わることになったからなー」 DTOのその言葉に、一斉にざわめく教室内。 この歳になってもやはり、転校生という者には興味を持つのだろう。 そんな中、私は。 (時期的には、よくあることだろう) なんて、さして興味もなかった。 だって、ちょうど学年が変わって、今日から授業が始まる。 クラスだって変わったばかりで、今日初めて顔を見る者も何人かいるこの状況下。 新しく入るなら、今の時期が1番馴染み易いだろう。 「先生っ、男の子ー?女の子ー?」 誰かが黄色い声で問う。 「男だ。しかもイケメンだぞー?」 その答えを聞いて、クラスの女子が甲高い声を上げた。 男………それを聞いて、ちらと頭の隅に浮かんだのは、桜の木の下で見掛けた、彼。 まさか……な。 窓の外で、桜の花びらが空へと舞い上がる。 「じゃあ、入ってくれ」 その掛け声の少し後に、ガラガラと扉の動く音が2回にした。 微かにざわめきが起こる。 そして、少し擦り足気味の足音が響いた。 「ハジメマシテ。ぼく、スマイルって言います。よろしくネ」 再び響く、女子の黄色い声。 彼女たちが嬉しそうに騒ぐのもわかる気がする。 高くもなく低くもなく、ほどよいテノールの声。 その音は確かに優しく、穏やかだ。 けれど……。 (白々しいな……) まさに、社交辞令。 絵に描いたような他人行儀だな。 相手と深く関わる気なんて毛頭ないような、何処か捻くれた言葉の印象。 まぁ、私に似ているか…。 そう思い、何気なく見遣った視線の先で、空とは違う碧を見つけた。 「………ぁ…」 空よりも澄んで、海よりも深い碧い髪の、桜の下にいた真っ青な青年が壇上にいた。 貼付けたような笑みを浮かべて。 「そんじゃ、ユーリ」 「…ぁ、はい」 惚けていると、突然DTOに名を呼ばれた。 訳も解らず、反射で席を立つ。 「クラス委員のお前が、今日からこいつの面倒を見てやってくれ」 「わかりました」 そう返事を返すと、窓の外へ視線を向けていた、スマイルと名乗った彼がこちらを向いた。 赤い隻眼がゆっくりと私に向けられ、徐々に見開かれていく。 そして。 「あぁあ!!」 突如、大声を上げた。 それに思わず、びくりと肩が揺れてしまう。 周囲も同じだ。 しばし、私と彼を中心に沈黙が訪れる。 しかも、彼は私を指差しながら。(……失礼な) 「ど、どうした?…スマイル」 DTOが驚きながらもスマイルに問う。が、彼はそれに答えず、つかつかと私の方へ歩み寄ってきた。 私の真横で彼はその足を止め、こちらを見詰めてくる。 な、なにか…?と、小さくなってしまった声で呟けば。 にこっ。 と、先程浮かべていた、如何にも作ったような笑みではなく、本当に優しく、穏やかに笑った。 「―――っ」 不覚にも、胸がドキリと鳴ってしまった。 バツが悪くて視線を逸らすべく俯かせようとした視界の端で、彼の手が動き、その手が私の手を掴んだ、と思うと。 「一目ボレしましたッ。ぼくと付き合って下さい!」 「…………は?」 一瞬にして辺りに重く、冷たい空気が漂い、時間が止まった。 やはりその中心は、ニコニコと満面の笑みを浮かべる彼と、その彼に手を握られ呆気に取られている私。 その時になっても、これから起こることのことなんて、全く予想も付かなかったけれど、 あの時に、とんでもない奴と出逢ってしまったということだけは、はっきりと今解った。 そう、あの時。 あの桜並木の下で…。 確かにスマはとんでもない奴だね★((笑! 次回は2Pユリズが出ます♪♪ [*前へ][次へ#] |