桜並木の下で
1-2
「………つーことだから。
て、聞いてんのか?スマイル」
名前を呼んでも窓の外へ視線を送ったまま。
全く違う方を向いている彼が人の話を聞いている訳がない。
書類の大量に置かれた机から身を乗り出し、サングラスを掛けた青年は盛大に溜息を吐いた。
そして。
「聞いてんのかっつってんだろ、スマ!」
「いだッ」
十数枚ほどの紙の束を丸めたそれで、頭を叩かれた。
力は大して篭っていなかったとは思うが、痛いものは痛い。
殴ってきた張本人を恨めしく見たが、この学校の理事長であるMZDは目を逸らした。
「ちぇー。ただ外見てたダケじゃんかー。叩かなくたってイイデショー?」
「おめぇが人の話を全く聞いてねぇからだろが」
「や。聞いてましたヨ?」
「じゃあ、俺は何の話してたよ?」
しばし考え、MZDから視線をずらせば、ふと目に止まった異形な影と目が合った。
けれど、影は何も教えてはくれなかった。
「……ぼくのコト」
「まぁ…当たりっちゃ当たりだが……」
そうなのだ。
ぼくのこと。と言って当たりなのは当たり前だ。
だって、理事長である彼は、今日この学校に転校してきたぼくに、ぼくがどのクラスに入るかなどを改めて説明してくれていたのだから。
「ま、いいわ。また最初っから説明してやっから、今度はちゃんと聞いてろよ」
「うーい」
「お前の新しいクラスは2-Aな」
「うーい」
適当に返事を返すも、視線はやっぱり彼を通り越して、窓の方へしかいかない。
あの時、誰かがいた気がした。
だけど、見えなかった。
桜吹雪が邪魔をして見えなかった。
それでも、一瞬だけ見えた気がする。
桜吹雪の隙間から、陽の光を浴びて、眩く輝いていた銀が。
うーん、見えた気がするんだけどなぁ〜…。
「んで、お前は文系だから」
「うーい…………………………て、ぇええ?!!」
驚きの余り、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「なっ、…ちょ、待っ…!」
けれど、MZDは相変わらず喰えぬ顔で笑っている。
え?な、なんで…!
「なんで理数系じゃなくて文系なノ?!」
だって、ぼくはこの高校の転入試験で受けたのは、確かに理数系だった。
文系より、答えが1つしかない数学や理系の方が簡単で得意だからだ。
だから、転入試験では理数系クラスへのテストを受けて、ちゃんと合格した。
はい、合格しましたよ。そりゃもう満点で。
な の に !
「なんで、文系なんでしょーか?理事チョー様?」
にっこり笑って問えば、彼はあっけらかんとした態度で笑った。
「文系の方がいいと思ったからに決まってんじゃねぇか」
実に解りやすい。まさに、ジャイ●ン。
弱虫眼鏡クンが泣いて、どー見ても猫なんかに見えない青い珍ロボットに助けを求めるのもわかる気がする。
や。でも、あなたがそう思ったからって、この学校に転校してきたぼくがそれを望むとは限らないでしょ。
実際、ぼくは理数系を望んでたんだよ?
なんで、文系にしちゃうのさ。
何がよくて、文系なわけですか?
なんて、反論したって無意味なのは今までの彼との長い付き合いの中で嫌というほど学んだから、ぼくは仕方なく溜息を吐くだけで諦めた。
「ま。いいじゃねぇか。文系のそのクラスの方がお前には1番最適なんだよ」
「…なんだヨ、ソレ」
「うら。もう行った行った。SHLが始まる時間だぜ」
明らかに勝手すぎる言い分に、背を押されながらも言い返そうとして、彼を肩越しに振り返る。と。
そこには、彼曰く、ニヒルだろ?とよく言っている、あの何か企んでいるような笑みがあった。
あぁ、もしかしなくても、ぼく……ハメられた?
「すぐにお前もぜってーあのクラスに入ってよかったって思うぜ」
そう、にやっと笑って部屋から追い出されてしまった。
SHLの始まる間際のこの時間帯、やけに静かな廊下で、ぽつんと独り立ち惚けてしまう。
「……はぁ」
ここにずっと立っていたってしょうがない。
クラスはもう、MZDによって、勝手に文系のクラスにされてしまったけれど、
今日からそこが、自分の新しい居場所だ。
「ま、そんなモノ要らナイけどネ」
にっこり笑って、ぼくは自分のクラスへと歩き出した。
さっきの、彼の発した台詞の意味なんて、深く考えもせずに。
スマって、前の学校で問題起こしてそうだよね。
んで、唯一手綱をひけるMZDの高校へ………って感じ?((笑!
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