桜並木の下で 桜並木の下で 1-1 春。それは、出逢いとはじまりの季節。 別れの季節とも言うが、春に人との別れをあまり経験したことのない私にとって、それはどうでもいい。 実感なんてないから。(小中高大と、エスカレータ式な学校だしな) でも、確かに出逢いはあった。 媚薬の成分が含まれているという桜の香りの漂うこの桜並木の、学校までの道で。 あれは決して、その香りに誘われたからだとかじゃない。 そんな軽い理由なんかじゃない。 (………………青い) 桜の木の下で佇み、桜を見上げている彼。 何をそんなに見詰めているのだろうかと、少し気になり、私はその場で歩みを止めた。 (あんな真っ青な奴……学校にいただろうか) そう思案し、首を傾げたのと同時に、彼がこちらを振り向いた。 赤い隻眼と、自分の紅い双眸が交わる。 その瞬間、強い風が一陣吹き荒れた。 あれはきっと、運命と片付けてしまうには簡単すぎる気がする…。 だって、今でも私の眼には、あの時の桜と、あなたのその瞳と姿が、 鮮明に焼き付いているのだから。 『桜並木の下で』 「ユーリ!」 「…っ」 桜の花びらが舞う中で、突如聞き覚えのある声が聞こえた。 微かに惚けたような顔で振り向けば、そこにいたのはアッシュだった。 幼馴染みであり、同級生で同じくラスの彼は、人懐っこい笑みを浮かべてこちらへ歩み寄ってくる。 「どうしたんです?ぼーっとして」 そう問うてくる彼に視線を向け、首を軽く左右に振って。 「いや。少し桜に見惚れていただけだよ」 「あぁ。見事に咲きましたもんね〜」 そういや、タイマーさん達が今度花見をしないかって言ってましたよ? とか、彼が歩き出しながら話し掛けてくるが、私の思考は専ら別方向に向いてしまっていて、返すのは空返事ばかり。 気付けば、桜の下で佇んでいた人物の姿はなくなっていた。 どうやら、桜吹雪が視界を隠し、アッシュに気を取られている間に、何処かへ行ってしまったようだ。 そういえば、同じ学校の制服を着ていた。 ということは、ここの生徒か。 だが、あんな青い奴……同じ学年にいただろうか。 いや………いない。 しかし、あんなに真っ青な外見だったら、先輩の方にいても目立つよな…。 ならば、新入生…? でも、年下には見えなかった…。 「…何だったのだろうか…」 「え?何か言いました?」 先を歩いていた長身の彼が振り返る。 それに首を横に振って、なんでもないと告げた。 少しだけ訝しそうに首を傾げる彼をくすりと笑って、空を仰ぐ。 (この空よりも澄んだ碧だった…) 何故だか、先程見掛けたばかりの彼が気になってしまったが、それを気の所為だと思わせ、桜の花びらの舞う中、私は学校へと足を運び続けた。 この時の私は、出逢いというものが今まさにあったなどとは、微塵たりとも気付きもせずに。 ただ、毎日に何の変化もなく、1年次と同じで詰まらない2年次の日々が始まったんだと、 ただそう思うだけだった。 とってもありきたりな話でこれからも続くこと間違いなしだね……!orz [*前へ][次へ#] |