桜並木の下で
2-14
「……ユーリ、いい?」
ノックをし、少し控えめな声で部屋の中へ問えば、中からユーリの声が聞こえた。
そして徐に部屋の扉が開く。
「シオン?どうしたのだ?」
もう寝る支度を終えたユーリが小首を傾げながら問う。
けれど、オレが何を言おうか少し戸惑っていたら、彼がくすりと微笑んだ。
「一緒に、寝るか?」
オレはその問いに、馬鹿みたいに元気よく頷いていた。
(まぁ、そのつもりで自分の枕持ってきてたしね…)
「今日は本当に楽しかったな」
そう言って、先にベッドへ寝転がっていたオレの隣に落ち着きながらユーリが笑う。
その顔は本当に嬉しそう。
それほどまでに楽しかったんだろうな…。
ユーリの笑顔に、少しだけ寂しくなる自分がいて、何故だか悲しくてしょうがない。
「ルリもいたのなら、一緒に遊びたかったな」
「ホントだよ。全然気付かなかったよなぁ?」
「夢中になっていたからな…」
今日は、スマイルがルリに殴られたあと、特に2人が喧嘩をすることはなかった。
ルリのことだから、何か文句の1つでも言って喧嘩になると思ってたのに。
(それか、もっと殴ると思ってた………喋らない代わりに手と足が出る性格だから…)
だけどルリは、
「この子、結構頑固だから……頑張ってね…」
そう言って、珍しく微笑っただけだった。
それが意外だったし、少し羨ましいとも思った。
オレにはそんなこと絶対にできない。
そんな簡単に、許せないよ。
だって、ずっと一緒だったのに、隣にいて当たり前の存在だったのに、
それを突然現れたわけのわからない奴に壊されて、
挙げ句ユーリを奪われて…。
そんなの、許せるわけがないよ…。
でも、ユーリは今日ずっと楽しそうだった。
アイツの隣にいるユーリは、ずっと笑っていた。
『そろそろ、兄離れしてもいいんじゃね?』
帰りに、コウがオレにこっそりと耳打ちしていった言葉が頭から離れない。
そんなこと、解ってる。
いい加減ガキじゃないんだし、オレの勝手でユーリを縛るなんて嫌だもん。
でも、ユーリを誰かに盗られるなんて、それ以上に嫌なんだ…。
だから、アイツの存在を受け入れることも、
許すこともできなくて…。
(でも……ユーリはもう…)
一緒に寝転ぶユーリの顔を真っ直ぐと見詰めれば、ユーリが紅い瞳を向けてくれた。
ただ、その瞳が優しすぎて、オレは少しも目を逸らすことができない。
「……今度はみんなで行こ?」
アリアもルリも連れて、みんなで遊ぼう?
そう問えば、ユーリがそうだなって微笑う。
「…みんなで、」
オレの目からは、無性に、涙が零れた。
嫌なのに。
ユーリの前で泣くと、ユーリまで泣きそうな顔をして彼を困らせてしまうから、嫌なのに。
でも、オレの意思を無視して涙は止まってくれない。
「……シオン…」
「ぅー……っっ、…ふぇっ」
涙を拭ってくれるユーリの少しひんやりした手。
ねぇ、その手にはもう……オレは、触っちゃダメ?
手を伸ばしちゃ、ダメ?
もう……もう…………
傍にいちゃ…………
「なぁ、シオン…」
ユーリが、ゆっくりとオレの名前を呟く。
涙でぐしゃぐしゃな顔を上げれば、ユーリが優しく微笑んでいて、余計に涙が止まらなくなって…。
「…私、シオンのことが、大好きだよ?」
そう言って、ユーリがオレの頬にそっと触れる。
「それは、絶対に変わらない。
でも私は、アイツのことも好き……なんだと思う」
少し視線を俯かせた彼は、少し照れているよう。
……わかるよ。
だってオレ達、双子だよ?
ちゃんとユーリの気持ち、全部感じてるよ…。
「ね、いいこと教えてあげる」
すると、ふと、ユーリが悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
そしてオレの額へ自分の額を小突き合わせて。
「私はね、本当は、シオンとルリ、アリアに兄様、そして母様と父様のことが1番大好きなんだよ」
内緒、な?
ふふふ、と、ユーリが笑う。
オレはそれに一瞬呆気に取られ、だけどすぐに吹き出してしまった。
きっとユーリは、アイツのことが大好きよりももっと上の、『大好き』なんだ。
けど、オレのことも…皆のことも変わらず大好きでいてくれるなら…。
傍にいてもいいのなら…。
「ずっとずっと大好きだよ、シオン」
そう囁いて、ユーリに手を優しく握られた。
もう一度彼と笑い合って、一緒に瞼を閉ざす。
ただのそんなことが嬉しくて、ただのそれだけで満たされて。
(ずっと手を握っていて、イイよね?)
今夜は久し振りに、ユーリとの幼い頃の夢を見た、
そんな気がした。
ものは言いようということです←
好きと愛してるの、違いです←←
1番好きなのは、みんな。
だけど、1番愛してるのは1人。
少し、卑怯な答えですね。
好きと愛してるの違いが解らないほどガキじゃないけど、大好きでいてくれるなら、それでいいかも。そう思った金でした。
ちょっと(てか、だいぶ)無理矢理感が…。
次回で金の絡むお話はラストになる予定です。
………うん。
……………よてい…(^q^)
09,12,10
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