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桜並木の下で
2-6


「……ふぁあ…」




 欠伸を漏らし、覚醒しきらない寝ぼけ眼を擦りながらカーテンを開けば、春の穏やかな陽射しが部屋を明るくさせた。

 反射的に目を細めるが、それほど目には刺激を与えず、寧ろ清々しい。


 目前の木枝に雀が2羽留まり、囀る。




(……少しは兄様、落ち着いただろうか…)




 昨夜は結局、眠るまで兄様の機嫌は直らなかった。



 まぁ…追い打ちで、アリアがいつの間にか携帯で撮っていた私とスマイルのツーショットを見せたから………な。

 本当にオーギュストの子か確認してもらうべく出したのだが、兄様の前で出したのがまずかったんだって。
 というか……本当にいつの間に撮っていたんだ…。



 溜息を吐きながらクローゼットから制服を取り出し、着替えていく。




(……そういえば、シオンもなんだか元気がなかったな…)




 はたと、昨夜彼が帰ってきた時のことを思い出した。


 普段なら私が彼を出迎えると、子供のように笑い、抱き着いてくるというのに。

 昨夜は、それがなかった。


 しかも、顔を逸らされてしまった。





(……………)





 ぱたん……と扉を閉め、
 私は隣の、まだ寝ているであろうシオンの部屋へ向かった。












「………シーオン………シーオーンーっ」




 いつもの如く、枕を抱えたままベッドからずり落ちてしまっているシオンの名を呼ぶ。

 けれど、彼は少しだけ呻いて、また規則的な寝息を立ててしまった。




(いつも思うのだが……何故落ちるのだ?
 しかも、起きる気配はないし……)




 上半身だけ床に落ちているという変な体勢を器用に保ったままの彼の頬を突く。

 それでもやはり起きてはくれない。



 こうなったら…………。




「シオーン!!」

「ぅぎゃあ!!!」




 彼の名を叫びながら、彼の下敷きとなってしまった掛け布団を一気に引けば、
 彼は盛大な音を発てながら床にべちゃりと沈んだ。



 ……少し、やりすぎたかな…?



 そう思いながら彼を見下ろしていると、彼は漸く起きたのか、重たそうな瞼を擦りながら私を見上げてきた。



 …うん。寝ぼけ顔が子供みたいでやっぱり可愛い。




「はよ………ゆーり…」

「おはよう、シオン。今日は一緒に学校へ行こう?」




 にっこりと笑って言えば、彼は一瞬動きを止め、だけれどすぐに綺麗な蒼い双眸を大きくさせた。




 ……彼は、あまり学校へは行かない。

 病気とか何か重大な理由があってとか、そういう訳ではない。


 ただ……行かない。
 なんとなく、面倒だから、と。



 時々学校へ行ってもあまり授業にも参加していない。
 アッシュの兄であるコウとつるみ、ほとんどサボっているらしかった。



 そんなに詰まらないだろうか……。

 まぁ…確かに、毎日机に向かい、教師の話を聴き、板書を書き写し、
 そんな似たようなことの繰り返しだがな。



 個人には個人の楽しみ方があるから仕方ないのかもしれないなぁ…。



 けれど、サボっているからといって、彼は留年などしていない。

 それは、テスト前になるとしっかり勉強しているからだ。

 しかも、徹夜までして。




(そこまでするくらいなら、ちゃんと授業を受けていたらいいのに)




 毎度、半泣きで、でも真面目に勉強する様は見ていて愛らしい……というか可笑しかった。



 それに、彼は学校へあまり来ないくせに、クラスで浮いた存在にはなっていないらしい。

 学校へ来たら来たで皆にからかわれ、遊ばれているそうだ。



 きっと………こういう性格だからか。



 誰に対しても裏表がなく、自然体でいて。
 確かに口は悪いが、けれど決して一方的に人を傷付けることはしない。
 汚い真似もしない。

 いつだって真っ直ぐで、正々堂々。




(そして、ちゃんと『自分』を貫いている)




 私は、そんな彼が羨ましくもあり……憧れでもあった。





(……私は偽り、他人との距離を作ることばかり覚えてしまっていたから…)





「…ユーリ…?」




 やっと目を覚ましたらしいシオンが、小首を傾げながら私を見詰めている。


 私はそんな彼の、元から癖で跳ねているのに、寝癖で余計に跳ねてしまった髪を撫でた。




「シオン、大好きだよ」




 いつでも、明るく元気なシオンが。

 大好き………大好き。




「……っ、」

「だから、一緒に行こう?」

「……………っっ」




 何の脈絡もない言葉。
 だけれど、それは事実だから。

 だから、ちゃんと伝えたい。


 そうして私がもう一度訊けば、彼は微かに頬を紅く染めながら、何度も何度も頭を縦に振っていた。

 それが可愛くて可笑しくて、私はまた微笑んだ。




「なら、早く着替えて、朝食を食べよう?
 でないと遅れてしまうよ」

「ぉ……おう!ユーリ、先、メシ食ってて!」




 慌てて着替え始めたシオンを見詰めてから、私は部屋の扉を開けた。


 そして部屋を後にする際、「口が悪いぞ」と彼に笑って言えば、

 彼は「ごめん」と言いながらも無邪気に笑っていた。












ユーリは金のことを弟として大好きだけど、
金はユーリのことを兄としてだけではなく大好き……だったり★


因みに、銀金っぽくなりましたが、金銀です←

ユーリは絶対に受けだ!(煩い)


あと、金はユーリに近付く男とよく喧嘩してる………っていうのを書こうとしたんですが、

なんか暗く余計に長くなりそうだったから止めました((苦笑。



次回からは、2人にスマも絡み出します。




09,03,09





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あきゅろす。
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