桜並木の下で 1-14 「…………本当に……調子が狂うよ」 意外と睫毛の長い寝顔を見詰め、ベッド脇の椅子に座りながら溜息混じりに呟く。 教室で私を見つけるや否や、作りものめいた笑みを消し、にこりと本当に笑った彼。 すると突然、私を好きだと第一声に発した。 そんな彼は、私と同じ「人が嫌いな眼」をしていて。 だけど、私に真っ直ぐすぎる穏やかな笑みをくれた。 彼は、私だけは信じると言った。 好きだから。 「……なぁ?」 だから、自分も信じて欲しい、と。 私を好きな自分だけは信じて、と彼は呟いた。 ふわりと笑んだ顔が、頭に浮かぶ。 そして今、すぐ目の前には、私を好きだと言った彼が眠っていて。 「お前のこと……信じて、みても…いいだろうか?」 初めてなんだ。 お前みたいに笑う奴、初めて見たんだ。 そして、私はお前の笑ったその顔をもっと…もっと見ていたいと思ったんだ。 もっと……一緒にいてみたいと、思ってしまったんだ…。 「…………少しだけ、付き合ってみるのもいいかもな…」 だって…………なんだか、お前のことが気になって仕方がないみたいなんだ。 こんなにもすぐ近くにいるお前の、もっと近くにいたいと……そう思っていて。 もしかしたら、私はきっとお前のこと…………………。 「………………プフーッ」 「?!」 すると突然、ベッドに添えていた手を握られた。 眠っていたはずの、彼に。 「おまっ………起きてっ…?」 「ヤッバイぼくチョー嬉しい…!」 がばっと彼はベッドから身を剥がし、そのまま私を抱き締めた。 まさかこいつ……ずっと狸寝入りをしていたのかっ?! 「ずっと寝たフリしようかと思ってたんだケド、君、可愛スギ」 耳元で呟かれ、私は思わず固まってしまった。 だって、近いし……それに、彼の声に堕ちてしまいそうになったから……。 「……………ネ?さっきの、ホント?」 彼は顔を離し、真剣な瞳で私を見詰めた。 その赤い隻眼は揺るがなく、まっすぐと私を見詰めていて。 彼の赤い瞳に、私の顔が映る。 あぁ………ヤバイ。 「…………試しに、だ」 思わず赤くなってしまった顔を逸らし、ぶちきらぼうにそう言えば、彼は息を詰まらせた。 そして。 「ヤッター!!ユーリが付き合ってくれるー!!ww」 「だから!試しにだと言っているだろうっ?」 「ヤター!!w」 ぎゅう…っと、私の体を抱き締めながら、彼は子供のように燥いでいた。 こいつ……人の話など全く聴いちゃいない…! 「お前……」 いい加減にしないか。 そう言おうとしたが彼の笑顔を間近で見た瞬間、そんなこと言えなかった。 ………その顔、反則だ…。 「お前、じゃなくて…スマイル、ね」 常に浮かべている厭らしく笑った顔じゃなくて、ニコリと穏やかに笑んだ彼……スマイル。 「よろしくネ、ユーリ」 そう呟いて、穏やかな距離をそっと縮めてきた彼の整った顔。 その顔は、今まで出逢ってきた誰のものよりも穏やかで。 あぁ……私はこの顔が、 穏やかに優しく笑った彼の顔が、好きなんだ。 そう思いながら、自然と瞼を閉ざした…………瞬間。 「ユーリ!付き添いってどうしたのっ?心配で来ちゃった……ょ………」 シャッと勢いよくカーテンを開けて現れた、タイマー。 だけどその勢いはすぐに消え、代わりに嫌な沈黙が訪れ……。 ……頼むから、誰か……誰か、何でもいいから何か言ってくれ…! そう思って見遣ったスマイルの……この時の、 彼のこの上ないほどに厭らしい笑みは、きっとずっと、忘れないだろう…。 まさかお前………タイマーが来るとわかっていてやったのか…?! そう疑い、見上げた彼の顔はやはり厭らしくて……、 私は彼に拳骨をくれてやった。 「痛いよ、ユーリ…」 「知るか」 それでもやはり笑みをくれるスマイルに、私は確かに、惹かれていた。 無理矢理感たっぷりですが、これでようやくスマとユーリがくっつきました…! やっと先へ進みやがったぜこんちくしょうッ★ [*前へ][次へ#] |