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桜並木の下で
1-12



「よっと」




 掛け声を漏らし、片手に1組のシューズを持ったまま彼がこちらへと鉄製の梯子を器用に登ってくる。

 私はそれを黙って見詰めたまま、やはり動けない。



 ……何故?


 そんなの知らない。私だって知らない。



 ただ……。




「お邪魔しま〜ス」




 私の横にしゃがみ、にこりと笑みを浮かべる彼。
 そんな彼の笑みに私はただ、目を離せずにいた…。




「ハイ。お届けに参りましたヨ」




 そう言って、彼は笑顔で私のシューズを差し出してきた。
 それを1つ頷いて受け取り、未だ笑みを浮かべこちらを見ている彼を、私はちらちらと窺う。


 その間ずっと頭に浮かんでいるのは、彼のさっきの言葉。




『必死に、ぼくに離れないでって言ってるみたいなんだもの』




 ……馬鹿馬鹿しい。

 誰がそんなこと思うものか。


 何故、私が会ったばかりのお前に子供染みた駄々を捏ねなければならないのだ?

 こんな、腹の内を全く見せない奴に…。



 そう思い、彼を睨み上げれば。





「まーた、その眼」

「っ?!」





 ぶにっと、顔を両手で挟まれた。



 ………な…なに?


 彼が何をしたいのか、本気で解らない…。



 けれど、




 けれど、彼はどうしてそんなに穏やかな笑みを浮かべているのだろう…。





「君、まーた誰も信じてないような眼してる」

「……え?」

「だから、君のその眼」





 ぼくと、同じだ。



 そう、穏やかに呟いた声は、ひどく優しくて…。

 私は気付けば、彼の赤い隻眼を見詰めていた。




 お前と同じ……誰も信じていないような、瞳……?





「………人が、嫌いかい?」




 隻眼を穏やかに細め、私の瞳を見詰めながら首を傾げ問う彼。

 その瞳は、不思議なほどに優しすぎて。



 私は何も言えなかった。


 いや、違う。


 本当は。



 何も言えなかったのは、彼に、真実を言い当てられてしまったから。




「どうして?」




 音を発てずに流れていく春風。

 その風に弄ばれる私の銀の髪と、彼の紺碧の髪。




「………」




 私が瞳を逸らすと、彼は私の髪を撫ぜた。

 ゆっくりと、優しく。



 私が彼のその行動に驚き、視線を戻せば、そこには変わらず穏やかな隻眼があって。



 なにもかも、見透かされていると思った。


 私の思うこと、考えること総て、彼に知られてしまっている気がした。

 隠しても無駄なのだと……。





「…………信じれない、からだ……」





 彼が隻眼を細める。




「人など、信じられるものか。
 人の関係だって、所詮は総て上辺だけ。誰も、心から誰かを信用することも必要とすることもない。だのに、その表面上だけの笑みで仲間だのなんだのと口にする。
 そんな奴らをいくら信じていたって、いつかは裏切られる。

 ならば、私はもう、最初から信じない」




 周りの人間は、私の外見やら家柄だけで“私”という人物を勝手に作り上げ、
 私と親しくなったり付き合ったりして、それを自慢したいということだけを目当てに、私に寄ってきた。

 周りはそんな下らない奴らばかりで、いつしか私は人を遠ざけた。

 自ら、彼らの作り上げた“完璧な私”を作り演じ、詰まらないクラス委員長を務め、生徒会にも入った。(どちらも私の意思なんかじゃない)


 いつしか、幼馴染みのアッシュやロキたちにまで自分を偽ってしまうほどに、その癖は身体や脳に染み付き、そして余計に人を遠ざけてきた。




 でも、本当は……………。






「私だって、人だ……」





 周りと、同じだ。

 同じなんだ。


 私だって、普通でいたい。



 普通の自分で、人と……………みんなと。





「…………嫌っていても、人が好きなんだね。だから君は、ぼくにあんなことを言ったんでしょう?」

「……………」

「本当に嫌いだったら、あんなこと言わないもの……」




 わざわざ忠告するような真似、しないでしょ。



 さきほど、自分が彼に言ったことを思い返す。

 そして、その次に思い返されたのは、彼の言葉。





『離れないでって言ってるみたい』





 あぁ………そうかもしれない。

 彼の言う通り、私は彼に、離れないで欲しかったのかもしれない。


 嘘の自分ばかり見る周りの人に、何故だか裏切られた気がして。
 遠ざけられている気がして。

 だから自分が先に人を遠ざけてしまえば、辛くも悲しくも、寂しくもないと思ったから。



 でも、心の何処かではやはり人を好いていて。


 確かに、求めていて。





『ぼくと同じ眼をしてる』





 そうだ。彼の瞳が自分と似ていると、心の何処かで感じていて。

 だから、そんな彼にだけは離れて欲しくなくて…。





 ………ん?ちょっと待て。


 こいつにだけは……って、なんだ?





「よし!こうしよう!」





 すると突然、彼は私の手を握った。

 私は不覚にもそれだけで驚き、頬が火照るのさえ感じてしまい……。




「君はぼくだけを信じてッ」

「………はぁ?」




 突然、またわけのわからないことを言い出した彼。

 けれど、その眼は至って真剣。



 待て……ちょっと待て。理解ができないのだが……。

 そう言おうとした口は、彼の次の言葉で間抜けにも塞がらなくなってしまった。




「君とぼくは確かに人を信じられない。
 だけど、ぼくは君だけは信じるヨ。だって、ぼくは君が好きなんだ。

 だから君は、君を好きなぼくだけを信じてッ」




 一息でそこまで言うと、彼は私の顔に顔を近付けた。





「ぼくだけは、信じていて」





 間近まで迫った、彼の整った顔。

 私はその顔に一瞬見惚れ、だけど瞬時に我に返って。





「――――っっ」





 気付けば、私は彼を突き飛ばしていた。




「ぁ」




 2人で一言だけ漏らして、だけど彼が私の視界から消えた。






「いだぁぁッ!」

「ぎゃあ!!」






 激しい音と共に聞こえてきた彼と、何故かアッシュの悲鳴。


 慌てて下を見下ろせば、開け放たれた屋上の出入口の前で目を回しながら横たわる2人の姿を見つけた。




「…………………」




 私はただ、頭の中が真っ白なまま、2人の姿を見下ろしていることしかできなかった。












ユーリって我が儘だけど、実は無理にいい子ちゃんやってるイメージがなんとなくあったんで。

つか、また長いorz
うまく区切れなかったので、長いです。すみません;;

予定ではあと1、2話で2人がつきあってくれる。……は、ず!←


うーん………………いけるかな?

次回はハニーさん出ます★(オカマの方ね)

んで、2Pカラズが絡み始めてくれたらいいのに………orz 眠い。。。





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あきゅろす。
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