桜並木の下で 1-11 いつものように、簡単に流してしまえばいいのに。 何事もなかったように、 少しも相手になんかしていないように、 いつものように、はっきりと言って、突き放してしまえばいいのに。 だって、私は何とも思っていないのだから。 彼のことなんて、何とも思っていないのだから。 一言、「すまない」と言って、終わりにすればいいのに。 だのに。 どうして私は、彼にその一言を言わないのだろう。 ………いや。 何故、言えないでいるのだろう。 「……聞こえなかったのか?」 校庭の桜の花びらが一片、目の前を横切っていく。 そして、その向こう側には、綺麗な赤い隻眼を少し丸くさせた紺碧の髪の彼。 空よりも鮮やかな紺碧が春風に揺られている。 「これ以上私に構うなと言っているのだ」 私がそう呟けば、彼はキョトンとした顔で首を傾げた。 「なんで?」 「お前もどうせ、朝からいい思いなどしていないのであろう?」 朝から引っ切りなしに訊かれるどうでもいい問い。 真実なんて、欠片もないそれ。 気持ち悪い。 訊いてくる奴らはみんな、気持ちが悪いほどにいい笑顔。 何が楽しいというのだろうか。 何が面白いというのだろうか。 こちらにとってはただ、煩わしいだけだ。 「朝からどうでもいいことばかり訊かれ、それに逐一答えなければならない。 無視をすれば余計にからかわれ………そんなことを繰り返していれば誰でも嫌気が差す」 第一、問うてくる奴らはこちらのことなんて何も考えてなどいないのだ。 根も葉も無いことを訊かれ、 そして、周りで勝手に騒がれているこちらの気持ちなんて、全く考えていないのだ。 いや、考えようともしていないだろうよ。 だから、面白可笑しくあんなことが訊けるのだ。 「彼らはこちらの気持ちなんてお構いなしだ。ただ、からかって遊んでいるだけ。 そんな奴らに関わっていても、お前が嫌な思いをするだけだぞ。」 第一、同性というだけで周りの眼の色は変わる。 このご時世、それの障害は大きく、いい目をされない。 だから今回のことだって、やたらと突っ掛かってくる輩が多いのだ。 あの好奇心の下には、明らかな差別の色を含ませていることだろう。 奴らのあの眼は、ひどく気持ちが悪い。 「だから、昨日のことはなかったことにし、これ以上は私に構うな」 そうでなければお前があることないことで騒がれて、傷付けられるだけだ。 最後にそう呟けば、春風が私と彼の間を駆けて行った。 春の香りを連れ、ただ静かに。 「……………」 互いに互いを見詰め合ったまま、口を閉ざす。 見詰めた彼の隻眼は、優しい色を滲ませ、私と視線を絡ませている。 けれど、突然彼は顔を俯かせた。 そして……。 「……………………ぷッ」 「……は?」 「イヒヒヒヒヒ……!」 笑い出した。 彼は突然その場で腹を抱え、蹲りながら笑い出したのだ。 そんな彼に呆気に取られ、私は言葉を失ったまま動けない。 「ごっ、ゴメンっ。でも……………っ」 私をちらりと窺い、けれど笑いを抑え切れないらしい彼はまた吹き出した。 段々それが気に喰わなくなって、残っていたシューズの片方を再び彼目掛けて飛ばしてやる。 そうすれば、彼はそれを易々とキャチしながら、けれどまだ笑ったまま私の方を向いた。 「ゴメンゴメン。だってサ、君の言ってるコトがあんまりにも可愛かったカラ」 「はぁ?どういう意味だそれは」 私は忠告してやったんだ。 だのに、それが可愛いだと? ……こいつの考えていることは理解し難い。 転校初日のあの発言といい、今の発言といい…………何が言いたいのだ…? そう、考えていると。 彼は、にこりと笑った。 作りものの笑みなんかではなく、穏やかな笑みで。 「だって、なんだか今の…………必死に、ぼくに離れないでって言ってるみたいなんだもの」 「はぁあ?」 あまりにも突飛な彼の言動に、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。 すると、彼はにこりと赤い隻眼を細めた。 「君は、ほんとうに優しいね…」 春風が、私と彼の間をもう一度駆け抜けていった。 桜の香りを連れ、桜の花びらを静かに攫って行く。 私はその中で、ただ彼を見詰めたまま、その穏やかな笑みから眼を逸らせずにいた。 見惚れているだなんて、気付きもせずに……。 なんか、グダグダと長くなりました;; ダメだ、こういうこと書くと面倒臭いことばっか書いちゃう;; つかこの話…………できてたのは1ヶ月前………orz わ す れ て た … !← [*前へ][次へ#] |