桜並木の下で
1-10
軽い冗談で言ったわけじゃない。
ましてや、その場の勢いで言ったわけでもない。
こんな性格だから、信じてもらえないだろうけれど。
冗談なんかじゃない。
嘘なんかじゃない。
本心なんだ。
決して、見た目で、じゃないよ?
「――ふぅ」
階段を5階分上がり、漸く辿り着いた、屋上へと出れる扉。
重たいそれを押し開けば、途端、脇を通り抜けていく穏やかな風。
春の風は微かに冷たいけれど、別に苦じゃない。
寧ろ、気持ちがいい。
「んー。やっぱ屋上は気持ちがイーネっ」
柔らかい陽射しが降り注ぎ、それと一緒に穏やかに吹く風。
見上げれば、眩しすぎる光が痛くて、ぼくは反射で眼を細めた。
その時。
スコンッ
「ぃだぁッッ!」
突然、固い何かが頭を直撃した。
な…、何?!
なんか結構固いモンが当たったんだケド…?!
何かが直撃した箇所を押さえながら咄嗟に辺りを見渡せば、少し離れた処に、転がっている校内用のシューズ(方足)があった。
え………もしかして、あれが当たりましたか?
しかも、頭に。
あまりにも有り得ないことに立ち惚けてしまっていると、一瞬甘い薔薇の香りがした。
そして。
「ボサッとしていないで、とっととそれを拾ってくれないか?」
まったく……気が利かない奴だな。
不機嫌そうに呟くその聞き覚えのある声に、確かに胸の高鳴りを覚え、
そしてそれとは逆に微かな戸惑いを感じたまま振り返る。
頭に浮かぶのは、キラキラと優しく輝く銀と、まさに宝石のような紅玉の双眸。
「………やぁ。クラス委員がおサボりかい?」
振り向いた先には、想像した通り、綺麗な銀と紅があった。
出入口の上に座る彼……ユーリは足を宙に投げだし、ぶらぶらと揺らしている。
柔らかい春の陽射しを浴び、銀糸を風に靡かせている彼は少し不機嫌顔。
奇遇だね。ぼくもだよってニコリと笑って言うが、彼は高い処に登った猫みたいに、澄ました顔でそっぽを向いてしまった。
「アレ?シカトかい?」
ケラケラと笑って問うが、彼はやはり何の反応も返してはくれない。
こりゃ、相当嫌われちゃったみたいだネ。
彼がぼくにわざと当てたであろうシューズを拾い彼を見るが、彼は未だそっぽを向いたまま。
「ネー、ぼくもそっちへ行ってイー?」
「嫌だ」
おや。即答かい。
くすりと苦笑が漏れてしまう。
「でも、コレ渡せナイしー」
ぷらぷらと見せびらかすように彼のシューズを揺らせば、彼は漸くこちらを向いた。
けれど、その顔はやはり不機嫌そうに歪められている。
「……投げてくれればいい」
「エー?好きな子に向かってそんな危ないコトできないヨー」
お得意の笑顔を浮かべれば、彼はキッとぼくのことを睨んだ。
ぼくはなんだか楽しくなってきて、余計に笑ってしまう。
だって、あの子……反応が可愛いんだもの。
くつくつとぼくが未だ笑っていると、ふと風が吹いた。
そして――…。
「……………お前、これ以上私に構うな」
少しだけ強く吹いた風と一緒に耳へ届いた言葉。
ぴたりと笑うのを止めて、彼を見遣れば、彼はぼくを真剣な眼で見詰めていて。
その双眸は、微かに悲しそうで……。
あぁ、…………これはもう、決定的だね。
ぼくは、
風に吹かれ、春の優しい陽射しを浴びながら、悲しそうにぼくを見詰める彼に、
ただ、ただ、
どうしようもないほどの愛おしさを感じていた。
やっと、前へ進み出した2人。
だらだら。
だらだらと((笑笑!
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