桜並木の下で
1-9
「いらっしゃ〜イ★MZD」
扉を開けたMZDに満面の笑みで手を振れば、彼はなんとも思っていないような顔で手を振り返した。
なんだよ、詰まらないな〜。
「よぉ、どした。スマ」
「や〜?何となく来ただけだヨー」
「そっか。ならそこ、俺様のイスだから」
どいたどいた。なんて、手で払われてしまった。
「ちぇー。座り心地よかったのに〜」
「そりゃそーだろ。俺様のイスだぜ?」
なんせ特注品だからな。と自慢げに笑う彼に背後の影は苦笑しながらも、ぼくへ珈琲を淹れてくれた。
それを受け取り、壁沿いの棚に寄り掛かる。
いつも思うけど、影クンってなんなんだろ…。
「で?どうよ?新しいクラスは」
すると、にやりと笑みながら問うてくるMZD。
そんな彼に、ぼくはにこりとお得意の笑顔を返し。
「そりゃあもう、あのクラスに換えてくれた君には感謝しているヨ」
お陰であの子に出逢えたんだからね。
そう呟いて思い浮かべたのは、きらきらと綺麗に輝く銀。
それは春の柔らかい陽射しを浴び、優しくその光を反射させながら風に靡いて。
そして、あの紅い双眸。
それは深い紅色をしているのに透明感があり、澄んでいて。
まさに、紅玉。
それだけでも大分だというのに、顔もあんなに綺麗だなんて、反則の何物でもないと思う。
けれど、ぼくが同性にも関わらず、あの子に告白したのは………。
「そーいやお前とユーリ、ずいぶん噂になってんぞ」
「…みたいだネ。今朝からそればっかりだもん」
学校に来る途中、何人もの生徒に捕まった。
みんな(大半は女子だが)人のことをからかうように、
「告ったってほんと?」
「オッケーくれたー?」
なんて言ってきた。
「しかも、男にも絡まれたし」
ずっと好きだったのに、横からしゃしゃり出てきやがって。どういうつもりだ。
とかなんとか、どうでもいい因縁をつけられた。
「…………揉めてねぇだろうな…」
「マサカ。じゃあ、ぼくがフラれたら、君が付き合ったら?って言っただけで終わらせたヨ。メンドーだったから」
まぁ……自分がフラれるだなんて、思ってもないけどね。
(自信過剰なんかじゃないよ?……たぶんね)
それは言わずに喉の奥で笑えば、MZDは呆れたように、だけど何処か楽しんでいるように笑った。
「あいつ、どーせお前に会った瞬間キレるぜ?」
「だろーネ」
だって、噂が尾鰭をつけて勝手に独り歩きをしてしまっているのだから。
そりゃ、誰だって怒るだろう。
会ったら殴られるかな?なんて詫びれる様子もなく、肩を揺らし笑いながら部屋を出る。
「それじゃあ、ぼく行くネー」
手をパタパタ振って扉を閉めようとした時、「サボんなよ?」とMZDに言われたが、それにはただ手を振るだけで、部屋を出た。
勝手に閉まっていく扉を背にしたまま窓の外を見遣る。
そこには穏やかな光景が青空の下、拡がっていて。
(屋上に行こうかな…)
1度思い出してしまった銀と紅が頭から離れないまま、ぼくはまだ慣れない校舎の中を、屋上へと続く階段を探しながら歩いた。
ただ、そこに彼がいたらいいのに……なんて、思いを抱きながら。
友人曰く、KYなスマがまた登場です((爆笑!
でも、スマの場合、ほんとは「(K)かなり、(Y)ユーリラブ」です!←
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