桜並木の下で 1-8 空は快晴。 風が吹くと少し肌寒いけれど、そんなには気にならない程度だから、意外と過ごしやすい。 まさに気持ちのいい日和で、もしかしたら何かいいことが起こるかもしれないと、柄にもなく少し期待してしまう。 それなのに。 「ユーリっ、あの転校生と付き合うってマジか?」 「つか、もうデキてるんだって?」 登校中からずっと投げ掛けられる質問。 知り合いと会う度に彼らは同じことを口にしてきて、折角の気分を台なしにしてくれるのだ。 昨日のルリとアリアとのやりとりが思い起こされて、私は溜息を零してしまった。 「だから、何度も言っているように、私は奴と付き合ってなどいない!」 いい加減答えるのに苛々してきて、不機嫌さを剥き出しに声を荒げれば、彼らは吹き出した。 「んなムキになって、恥ずかしがんなって」 ………どうしてそう解釈する。 「私はムキにも恥ずかしがってもいない。ただ事実を述べているだけだ」 そう言って背を向け再び歩き出せば、「お幸せに」なんて、後ろから冷やかす声が聞こえてきた。 …………夜道には充分気をつけろよ。 「……はぁ」 やっとのことで辿り着いたクラスの、自分の席に荷物を下ろす。 と、クラスのあちこちから視線を感じた。 …………ここでもか。 少しだけわざと大きく椅子の音を発てて席から離れる。 もう、さっきのような問答には嫌気が差し、問われる前に避難すべく、教室から出ようと扉に寄ったその時、 ちょうど扉が開き、そこには赤いうさ耳の帽子を被ったタイマーがいた。 そして。 「あ、ユーリ!ちょうどよかった!あのさっ、」 「そんなもの、根も葉も無い噂だからな」 「…うわ。僕、まだなんにも言ってないじゃん。なんでわかるの」 彼が言い終える前に答えれば、彼は微妙な顔を作った。 だって、朝から同じことを引っ切りなしに訊かれれば、大体が予想付いてしまうだろう。 しかも、今目の前にいるのが、スクープなどが好きで、驚異の情報網を持つ新聞部の彼なら尚更だ。 「登校からずっとそればかり訊かれていたら、嫌でも予想はつくさ」 言って苦笑すれば、タイマーもうさ耳を揺らして、やっぱりデマだったんだ?と苦笑した。 「私が何を言っても周りは全く信じないからな。 お前が、私は付き合っていないと記事にしてくれたら嬉しいよ」 何せ、この学校の生徒はほとんどが彼の発行する新聞を読んでいる。 そして、タイマーはデマを厭い、書く記事は総て証拠のある真実のみだ。 そんな彼が、「私は奴と付き合ってもいないし、付き合う気も毛頭ない」と書いてくれたなら、私の話を信じなかった周りの輩も信じてくれるだろう。 溜息混じりに頼めば、彼はニッコリと笑って、立てた親指を私に向けた。 「もちろんさ!友達が困ってるとこなんて見たくないからね!」 任せてよ!なんて笑う彼がなんとも心強い。 「頼むよ」 「オッケー♪じゃ、あとで詳しく聴かせてねっ」 そう言って彼は、ジュース買ってくるからーと、元気よく教室を出ていった。 その後ろ姿を見て、携帯を取り出す。 時刻はあと10分もすればSHRの始まる時間で。 溜息を吐きながら踵を返そうとしたが、未だ背中に幾つかの視線を感じて足を止めてしまう。 「…………はぁ」 もう一度溜息を吐いて、居辛い教室を後にした。 総てあいつの所為だ。 折角のいい日を台なしにしてくれたあいつ。 (会ったら問答無用で殴り飛ばす…!) 苛々しながら拳を握り締めるも、頭に浮かぶのはやはり、あの紺碧。 頭からその色が全く離れようとしない。 けれど、何故か嫌ではなく。 (空でも見に行こう) 図書室へ向けていた足を引き返させて、私は屋上へと続く階段を登った。 タイマー登場♪♪ てゆか、スマとユーリがこれからどうやったらくっつくのか謎だよね☆(ぇ) [*前へ][次へ#] |