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為乃素 桜 様より(ティキラビ)

『満月狂歌』

会いたいという一言さえ声に出せず、ただ黒に浮かぶ月を眺めた。此処がどこだかわからないくらいの静寂と張り詰めた冬の夜風。
俺は冷たい窓のさんに体を任せながら、何をするわけでもなく月に見入って時間を潰した。来る可能性のものすごく低い客をひそかに心待ちにして。
「満月……」
片目に映る月はまるまるといい形をしていて明るい。けれどもその満月がまた、寂しさを感じさせた。
(覚えてるさ。いつだったか……)
記憶の中の満月は今夜のそれにそっくりで、
(ティキ……)
彼と歩いた夜道が美しく思い返される。あまりにそっくりな雰囲気を持っていたので窓から離れられないのだ。あの夜のように迎えに来て、短い時間でもこっそりとデートに誘ってくれるかも知れない。そんな微かな期待が俺を窓辺へ引き寄せて一向にはなさない。
もう何日も会っていないのだから少しくらい顔を見せてくれたってバチは当たらないではないか。どれだけ我慢すればいいというのだ。こんなにも待てるほど俺は強くない。
だけど彼の名前すら呟けずに一人、窓から外を伺うのは此処が教団で周りにエクソシストがいるからだ。
(ティキが会いにきてくれないなら、俺が行こうか?)
そんな事を考えて背後を一瞥するとじじいがまだ起きて何か静かに作業をやっていたり。
(こんなとこすぐに抜け出せるさ)
そんな考えは甘いかも知れないが今の俺なら出来そうな気がする。それだけティキに会いたい意志が強いという事。
(いっそ、この窓から飛び出してしまおうか)
そう思って再び外へやった視線が少しだけ怯えた。
駄目だ、月が見ている。
さっきまで綺麗だ、と語りかけていた月に俺は怯えて、それがまるで誰かを見る自分と合わさる気までした。
(そんなに見るなよ)
エクソシストとしての俺を向こう側から見るあいつの、何を思っているかわからない瞳を鮮明に思い出してしまった。


早くいつもみたいに優しい声を聞かせて俺を安心させて。




END




為乃素桜様から相互御礼で頂いた、ティキラビ文です。

ティキに会いたくてしょうがない感じのラビがとても可愛かったです。
いやもう、桜様のティキラビはラビが可愛くていいです!w

本当に有難うございました!

08.3.10



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