あなたと僕の願い
「・・・イルカ先生・・・お誕生日おめでとうございます・・・」
「・・・ありがとうございます・・・・・・てか、カカシさん?何でそんなに暗いんですか?」
二人の間には、カカシが買ってきた5号サイズのチョコレートケーキがロウソクを二本だけ立てて置いてある。
何故二本なのかというのはけしてカカシさんは教えてくれない。
「・・・いえ、何でもないんです」
そう言いながらも、ハァーと長いため息を吐く。
帰って来てからのカカシの態度にいい加減焦れたイルカはムッと顔をしかめた。
「・・・何ですか?おめでとうとか言っておきながら、本当はいい大人が・・・とか思っているんでしょ?」
プイッと顔を背けたイルカにハッとカカシが顔を上げた。
「あっ、いや、違うんです・・・あ〜・・・う〜ん・・・言わないと・・・駄目ですかね?」
「さっきから吐いているため息の原因なら教えて下さい」
「・・・笑わない?」
「笑いません」
「・・・怒らない?」
「怒りません」
「・・・呆れない?」
「・・・〜〜っ、呆れません」
前に進まない会話に、耐えているイルカに上目遣いで見るカカシは先生に怒られているアカデミーの生徒の様だった。
「・・・俺は・・・多分・・・イルカ先生の誕生日を心から祝えないかも・・・」
「・・・・・・え?」
途端に重苦しくなる部屋の空気。
カカシの意外な発言に驚愕したのか目を見開き口をポカンと開けている。
「・・・いや、イルカ先生は悪くないんです・・・ただ俺が勝手に悲観的になってるだけで・・・」
「・・・悲観的?」
「・・・笑わないで聞いて下さいね?・・・最初は年をとる事に対して別に何も思わなかったんです・・・なのに、それがだんだん怖く・・・」
「年をとるなんてどう足掻いても避けられないでしょうが・・・」
イルカの発言にいきなりキッと眉を吊り上げカカシが睨む。
「それです!!」
「・・・ハァ?」
「年をとる事は当たり前なんですよ!・・・それなのに・・・それなのに・・・・・・どうして、あなたは、年が減っていくんですかっっ!!??おかしいじゃないですか!!」
「・・・・・・はぁ?」
「はぁ?じゃありません!何ですか?自分はどんどん若くなっていってさっ!俺は微妙だけど、一つ年をとりました。27ですよ!・・・なのにイルカ先生アンタは23に下がってるってどおいう事ですか!?前は一つ差だったからそれなりに、“アア、同世代だなぁ”なんて思っていたのに、4つの差は大きいんですよ!そこまでいくと、もう先輩後輩ですよ!何か薄い膜があるようでっ・・・くっ・・・」
「・・・・・・・・・」
まくし立てる様なカカシの話をイルカは唖然とした顔で見つめる。
・・・何なんだ、この男は・・・
改めてこの里の内外で聞く誉れ高い業績が嘘っぽくみえる。
まぁ、本気で泣いている訳ではないだろうが顔を自分の手で覆いグスグスと鼻をならしている。
「・・・何を言うかと思えば・・・」
「・・・なっ、何をって・・・」
「俺は俺です。年がいくつだろうが関係ありません!」
「・・・それは、そうですが・・・」
「・・・実を言えば、俺は年が減っていくと、逆に不安になります」
「・・・え?」
「何か、未熟な自分に戻っていきそうで・・・」
「・・・・・・あ」
「・・・ね?若くなったって良くないでしょう?」
「・・・すみません」
いいんですよと笑うイルカの背にカカシは顔を下に向けながらそっと腕を回す。
怒った訳では無いけど、多分カカシの顔は泣きそうになっているだろう。
けして昔を忘れた訳ではない。若い時は早く大人になりたい、もっと大きくなりたい、今より成長したいと思っていた筈なのに、いざ大人になると子供に戻りたい、若くなりたいと願ってしまう。それは、多分子供の時に想像していた大人になっているか心の中で疑問に思っているからだと思う。"あの頃に戻れたら、あの時はこうすれば・・・"等と考えてしまうのだ。
何だか、無い物ねだりに似ているなとイルカはふと思った。
「・・・それに、寂しい」
「・・・え?」
ボソッと呟いたイルカの言葉にカカシは顔を上げた。
「・・・俺だって、カカシさんと離れていきそうで・・・寂しい・・・で・・・っ」
背中に回っていたカカシの腕に力が入ったと感じた時には既にカカシの胸の中に強く抱き締められていた。少し痛いと感じるきつさも何だかくすぐったくて、自分もカカシの背中に腕を回す。
「・・・あぁ、嬉しい」
カカシはイルカの肩に頭を乗せ深く息を吐いた。
「・・・若い方がいいですか?」
わざといじわるを言ってみる。
「・・・ううん、ごめん。もう、何でも良いです・・・だって、イルカ先生はイルカ先生だから」
「そうですね」
クスリと笑い、頬に触れているカカシの柔らかい髪にうっとりと目を閉じた。
後々ロウソクの意味を教えて貰うと、本当は年の分だけ欲しかったという、しかし、それを自分が買うと肯定している様でプライドと意地で買えなかったらしい。
そういう所が子供っぽいんだよなぁとつくづく不器用なタイプにはまり安い自分に苦笑して、カカシさんの誕生日には自分はどうしてやろうかなぁと向かいに座りヘニャリとした笑みでケーキをつついている想い人にそんな思いを隠して笑顔を返した。
END
※やっと書けました!イルカハピバ小説。
ほんとはもう少しギャグにしようと思ったのですが・・・はて?
まぁ、とにかく、読んで下さった方はありがとうございました!
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