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「・・・・・・あの〜・・・ホントにもういいかな?」

とにかく直ぐにでもこの部屋から出たい。
長かった任務からようやく帰って来て、何故最後にこんなに気分を悪くされなきゃいけないのか。
多分、目の前の男は自分のした行動に悪気は含まれていないと思っている。

自覚がないのは、余計に質が悪い・・・・・・。

相手に聞こえる様に長くため息を吐いた。俺のため息を聞いた男は、狼狽えながらもはっきりとした口調で答えた。

「頂いた書類に不備はありませんでした。本当に長期任務お疲れ様でした。」

何だかんだ言っても、受付の対応が体に染み付いているのか、最後に丁寧に頭を下げた。


受付所のある建物を出ると、先程までは風もなく生暖かい空気が疲れた身体にまとわりつく感じだったのに、寒くはなく、でも髪を靡かせる位の強さはあるだろうかという風が吹いていた。
口布を少し下げ鼻だけ出し、何回か深呼吸をしてみる。
そうすると、肺の中が少しだけ軽くなった様な気がした。気分が落ち着き、ふと今あった出来事を思い出して、受付所のある部屋の窓を見上げた。
日付はとっくに変わっている。これから帰って来る者は俺の様な長期任務だった奴か、昼間には持って来れない依頼か・・・。その中にはAランク未満とは言え、血の匂いがない訳では無い。
さっきの男は健康的なそして自分には無い何かがした。忍なのだし、こなした任務の中には血生臭いモノもあっただろう。・・・・・・でも、あの男からはこの時間に起きている事さえも間違いなのではと思う程の、昼間の匂いがした。


昼間の匂い・・・・・・。

自分とは反対だと考えて当てはまった答えに苦笑してしまう。
そうだ、自分は夜だ。しかも、星も月もない漆黒の闇がいい。
自分が歩いてきた足跡なんか光に当ててはいけない。自分だって振り返り、今までどんな風に自分が人として忍として過ごしてきたかなんて、もう一度見直したくもない。見たら余計に気持ちも荒み微かに残っているであろう良心も掠れてしまうだろう。

ふと、顔を正面に向けた。
こんな時間に灯りが付いている所もなく、続くのは点々と立っている外灯だけだった。それさえも家が減るにつれ少なくなる、そうすると足を進める度に自分が深い闇の中を歩いているかの様な感覚に陥る。
聞こえるのはわざと意識をして出している自分の足音だけ。

―あぁ、と小さなため息を出す。声は低く暗い街並みに響き、呻きにも似ていた。

今、自分はどんな顔で歩いているのだろう・・・。
きっと、胸糞の悪くなる様な歪んだ笑みに違いない。
でも、この闇にいる間はこんな感情も知られる事はない。だから、どうかこの時間だけは許して欲しい。

目をつむり自分に生きる価値と忍びとしての光を教えてくれた、今はもういない恩師と親友に懺悔した。








※一人だと暗い考えが浮上するよね。うん。


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