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ひとかけら。
[06]








ひきつる顔で無理やり笑顔を作り、イルカ先生の顔を見た。





「……………………え?」





………どうして?







元気づけられて笑っているであろうと思っていたイルカ先生は何故か唇を噛みしめ涙を流していた。
顔を此方に向け、眉を下げてどんどん流れ出る涙を拭こうともせず、ただ悲しそうな眼差しを向けているだけだった。




「…………え?あ、あの?イルカ先生?」



今自分が発言した中にイルカ先生を傷付ける様な言葉があったのだろうかと思い出しながらも、泣き止まないイルカ先生に慌てて側に近付きおしぼりを顔に付けた。


「え?あっ、あの、すみません。もしかして、何か酷い事言ってしまいましたか?……ア、アレかな?たいして相手の事知りもしないのに、応援するとかって……いやぁ、すみませ…」

「…カカシ先生……いいんです…」


とりあえず、思い付くままに謝ろうと言葉を発しているとイルカ先生に遮られる。

俺が軽くイルカ先生ね頬をおしぼりで拭くとイルカ先生は自分の手で掴み俺の手に微かに触れた。
ドキりと心臓が跳ね、そのまま掴みたかったが変な行動が出る前にと急いで手を引いた。




「………すみません…違うんです」

「………え?」

「…カカシ先生は悪くありません……俺がバカなだけで……本当、最低だ…」


何故彼が自分を罵っているのかわからず、困惑する。



「…駄目ですね。俺酔ってきているのかも……カカシ先生、もうでましょうか?」

「……え?……ええ」


酔っていると言う割にはしっかり立ち、でもそれからずっと下を向いたままイルカ先生は自分が誘ったのだからと会計を済ませ店を出る。
戸惑いながらも、素直に従ったがその間も先生の視線と合う事はなかった。


暫く歩いている間も何も会話も無く気まずい雰囲気のままイルカ先生の住む宿舎まで近づいていた。



こんな風にイルカ先生を困らせたかった訳ではない。
自分の誕生日を記念日にとは考えていなかったが、イルカ先生と楽しく過ごせたら今まで過ごした誕生日の中で一番の思い出になるだろうと思っていた。

でも、いつイルカ先生を悲しませてしまったのかわからなくてただ頭をかくしかない。



……応援するだなんて。

本当にする訳がない。

嘘の言葉を吐きイルカ先生に少しでも良いイメージをとの考えがバレたのか。




「……少し怖かったのかもしれません……」


「……あ、……えっ?」


シンとした雰囲気の中、いきなり話出したイルカ先生にビクッとなり急いで隣を見た。


「…本当は、好きな人に告白しないで…せっかく良い関係になったのにそれが壊れたら……でも、一緒にいるだけでは不安で……」



さっきの涙は想い人を浮かべて泣いていたのか。
以外と幸せそうに微笑んでいても実は苦しい恋をしているのだろうか?




「……相手には幸せになって欲しいんです……それは、確かです」


「…………うん」


それは、自分も同じだった。



「…とても優秀な方ですし、恋人になりたい人なんて山程いるのもわかってます、それ位素晴らしい人です。……でも、心の奥ではその人の相手が自分だったら……そんな事ばかり考えてしまって……本当に、浅ましいで
すよね?」

「そんな事ないデショ?普通誰だってそう思いますよ……てか、それが当たり前ですよ」


そう、自分も何回思った事か。



「……でも、確実に俺は駄目ですね…俺が気持ちを伝えた所で無駄だと…わかりました…気持ち悪いと思われて終わりです…」

「……そんな事無いですよ」

自分をそこまで蔑むのがよくわからない。
相手がとにかく優秀なのはわかった。
そして、忍だという事も。
だが、イルカ先生がそんなに消極的になる程の人がいただろうか?


「何であきらめちゃ駄目ですよ」


とにかく、悲しむイルカ先生の顔を見るのが辛くて元気づけようと、うわべだけの言葉を吐く。
誰かの事を想い浮かべ笑う顔も辛いが悲しい顔の方がもっと辛い。
本当に自分勝手な考えだ。





「……………」

「…………イルカ先生?」



「……本当にカカシ先生は、優しいですね……」

「イルカ先生?……」

囁く様な声に、よく聞き取りたいと顔を近づけた。







「……強くて……優しくて……本当に……酷い……」









「……………ーーーえっ?」





ギュッと手を握り締め、下を向いたままのイルカ先生の顔は見えなかった。





……………え?



………あれ?…………今、イルカ先生は、何を言った?





「……せっかくのカカシ先生の誕生日なのに気分悪くさせて、すみませんでした……では、今日は…これで…」





待って。
嫌だ。
今のは……


今離してはいけない。
離れたらまた戻ってしまう。

確信的なものは何もなかった。
だけど、ひとかけらの望みに掛けてみたい。


その微かな希望だけを糧に自分から視線を逸らし、今正に走り去ろうとしている想い人の腕を掴んだ。








※またまたお久しぶり。ホント、間間が長いデスね。すみません……。次は完結になるかな。


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