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ひとかけら。
[05]








「……俺は、いませんけど…、ホラッ?…イルカ先生も…好きな人が…いるって………」



暗くなっていった話しを違う所に振るつもりが途中からしまったと語尾を小さくしていった。


何て事を言っているんだ俺は。



けして、彼に振りたくない話題を自分で振ってどうするんだと思いきり後悔した。




「………いますよ。……好きな人」




……ああ、もう終わりだ。




「……へぇ…そうなんですかぁ……」



いつもみたく惚けた調子の返事をしたが、声が震えてなかっただろうか?
上手く笑顔は作れていただろうか?

震えそうになる手を隠す為にサッとテーブルの下に下ろした。
普段自分で自覚する程の低体温なのにそれよりも更に指先が冷えていくのがわかる。




「……もう、ずっと、好きなんですけど…多分俺の事なんて何とも思ってないのかもしれません…もしかしたら、俺の気持ちなんてただの迷惑なのかも…」



イルカ先生の想いを迷惑だなんて突き放す奴がいたら、迷わず殺してやる。
俺がずっと欲しかった想いをいらないだと?
そんなのは、絶対許さない。


…けれども、ソイツがイルカ先生を振ったらその隙間を狙っている自分もいる訳で……

どちらにしろ、誰かを罵る資格はないのだが。


「…それで、色々経験豊富らしいカカシ先生に聞きたくてぇ…」


俺がつらつらと考えている間もイルカ先生はボソボソと話しを進めていて、その想い人を思い出しているのか、ほんのり頬が赤く染まった。

見たかった顔なのに胸が苦しくなる。


俺じゃない誰かを浮かべて頬を染めるイルカ先生なんて見たくない。


視線を下に向け、渇いて仕方ない喉から無理やり声を出し返事をした。



「…そんな…俺の噂なんて、デタラメですよ?」


経験豊富と聞いているという事は、その裏での悪評なども多分知っているであろうと話す前に否定をした。
若い時はもしかしたら他の奴らから比べれば、随分と遊んでいたかもしれない。
でも、それは暗部に入って気持ちが荒んでいた時期だけだ。
要は血を見ても何も思わなくなっている自分が嫌でそんな気持ちを一時だけでも忘れたくて簡単に手に入る温もりに逃げていたのだと思う。
だけど、たいした思い入れも無い女と身体を重ねた後はただ空しい気持ちが膨らむだけだった。
今となっては、その女の顔さえ思い出せない。
それでも、自分はれっきとした男な訳で結局は気持ち良い方を選んでいた。
里に帰って来て上忍師となり、教え子の手前色事を控えたが過去だけが一人歩きして今に至ってしまった。


今更ながら、この人の耳に入るならそんなバカな事をしなければ良かったと後悔する。


「…じゃあ、カカシ先生の意見でも良いです……」

「…どんな人なんですか?…その人は…?」


もうイルカ先生の表情が見るのが辛くて、壁にある小さな窓から見える白い月を見ながら話しを進めた。


「…とても、強くて…優しくて…そばにいるだけで安心する……そんな人です…」


「…………そう」


イルカ先生の声は想い人を浮かべながら言ったのか、その笑顔はとても優しかった。

その人を心から愛してる。

想いが強く伝わった。

彼が振られたら、その隙間に入り込もうとしていた自分の考えがとても愚かに思える程に。

確かにきっと彼は振られたとしても、ずっとその人を想っているだろう。
自分ではない誰かと幸せになっても良かったと笑っているだろう。
まるで自分の事の様に。

そんな風に感じた。



………ああ、もういいか。

そんな彼だからこそ、俺は好きになったんだ。

そしてこの人が心から愛している人と一緒にいて、ずっと笑っていて欲しい。

きっと俺ではこんな優しいイルカ先生には出来ない。


「…イルカ先生だって、とても優しいですよ。…頑張って告白してみなさいよ?きっと上手くいきますって…ホラ?俺なんかと飲んでると『やっぱりイルカ先生は恋愛に興味無いのかなぁ?』…なんて思われちゃいます
よ?成功するまでずっと応援してますから…だから、頑張って…」




ああ、きっと今の自分の顔は歪んでいるのだろうな。



言葉を吐く度、胸にキリキリと鋭い刺が刺さる様に感じた。








※まだ、ウジウジ上忍してます……。


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あきゅろす。
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