ひとかけら。
[03]
「………カカシ先生?」
黙った俺をイルカ先生が心配そうに声をかける。その声で我に返り慌てて顔を上げ、イルカ先生を見た。
「あっ…すみません。……ええ…と?」
「…いえ、あの、どうという訳ではないのですが……」
そういえばイルカ先生と話しの途中だったと気持ちを落ち着かせ前を向いた。
モゴモゴと口篭る先生を不思議そうに眺めていると、サッと顔を上げた。
「あの…その日に、ご飯でも行きませんか?」
「…………………は?」
暫くの間の後、何とも間抜けな声で聞き返してしまった。
マジマジと目の前のイルカ先生の顔を見る。
少し頬が紅くなっている姿のイルカ先生は思わず押し倒したくなる位可愛らしい。
イルカ先生を見る度可愛いとか、邪な考えしか出なくなっている。
その位重症なのだ。
だから、その妄想が動いただけだと思った。
それ程信じられなかった。
「……あ、……いや、勝手に言ってしまい申し訳ありません!……そうですよね?カカシ先生だって予定がありますよね?……本当に申し訳…」
「あっ、ちょっと待って!ええ、とありません予定なんて、行きましょう?……ねっ?」
間抜けに聞き返した俺の返事を、どう捉えたのか今の誘いを今度は無しにしようとするイルカ先生を慌てて止めた。
自分でもツッコミを入れたくなる位の浮かれた言い方で、しかもイルカ先生に有無を言わせまいとしている態度が見え見えで恥ずかしい上に情けない。
でも、イルカ先生が誘ってくれたのにそれを逃す訳にはいかない。
「……いいんですか?…カカシ先生程の方なら他の人とか……」
いつも見る笑顔で微笑んでいるが、瞳の奥に一欠片程の寂しさを見つけてしまう。
そんなのを見つけてしまったら確実に無視なんか出来ない。
それ位参っているんだ。
俺は、この人に。
「ありませんよ。あんまり誕生日に声をかけられた事なんてありませんし…だから、凄い嬉しいです」
確かに、"写輪眼のカカシ"というブランド目当てに近付いて来る女はいるが、そういった奴らは自分の情報は吐露しても、相手の情報は自分の都合の良い事しか聞き出さない。
自分の誕生日を特別な日とは思っていないが、だからと言ってそんな奴らと過ごす気にもならず、いつも任務を入れるか自分の家に閉じこもる。
よくよく思い出せば、何とも味気ない誕生日を過ごして来たと思う。
言い訳の中にも本音を混ぜイルカ先生に言うと少し困っていた表情が花が綻ぶ様な笑顔に変わった。
この笑顔を彼の想い人にも見せるのだろうか?
もしかしたら、もっと優しくて暖かいのかもしれない。
この人なら自分の全てを捧げるのだろう。
そこに立つのは自分になりたかった。
イルカ先生は俺と待ち合わせの時間と場所を決めると、ペコリとお辞儀して小走りにアカデミーに向かって行った。
俺は、愛しい人と酒宴を約束して嬉しい筈なのに何故か足が鎖を掛けられた様に重く、暫くその場から動けないでいた。
※一人悶々とする上忍。
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